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愛は能動的に働きかけることだけではない。「愛って受容」な映画20選

愛は能動的に働きかけることだけではない。相手の行動や性格のすべてを受け入れて肯定し、認めることも、一つの愛情表現だ。それが自分の価値観と相反していたり、受容のハードルが高ければ高いほど、それを乗り越えた時には強烈な愛の瞬間が生まれる。

illustration: Yoshimi Hatori / text: Keisuke Kagiwada, Eri Tsukinaga

『どですかでん』

家族愛

家族を一つにまとめ上げるのは、愛の包容力

ヘアブラシ職人の良太郎は、浮気者の妻がそれぞれ別の男との間に作った5人の子供を育てている。彼が子供たちに語る言葉には愛の包容力を感じざるを得ない。「父ちゃんは、みんな自分の子供だと知っている。だから、みんなが大事だし、可愛くて仕方ない」

『フォロー・ミー』

夫婦愛

夫婦生活の一歩目は、ありのままの妻を見守ること

上流階級出身のチャールズは、毎日出歩く妻の浮気を疑う。調査の結果、疑惑が晴れると同時に判明したのは、彼女がルールの多い家庭生活に不満を持っていたこと。その時彼は彼女の天真爛漫さにこそ惚れたことを思い出し、ありのままの彼女を見守ることにするのだった。

『ラ・パロマ』

恋愛

幻想の中で描かれる、男の献身と女の寛容

歌姫ラ・パロマに魅せられた男は、愛の名の下にすべてをなげうって彼女に尽くす。病に倒れた彼女を支え、浮気を許し、死を懸けた最期の願いも叶えようとする。献身的な愛を捧ぐのは男だが、彼の愛をひたすら受け入れる女もまた誰より寛容なのかもしれない。

『マックス、モン・アムール』

恋愛/夫婦愛

猿に恋した妻と、それを受け入れる夫の三角関係

ピーターの妻が浮気していた相手は、なんと猿だった。動物園で出会ったその猿を連れ帰った彼女は、性生活の有無こそ明かさないが、恋人だという。異種間恋愛をごく自然に実践する彼女もさることながら、戸惑いつつその奇妙な三角関係を受け入れるピーターもあっぱれ。

『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』

友情/人情/恋愛

人を愛するには、まず愛を受け入れる術を学ぶべし

里親に虐待されて育った青年ウィルは、類い稀な数学の才能がありながら清掃員の職に就いている。そんな彼が同じく心に傷を抱えるセラピストとの対話を通して学ぶのは、他人からの愛を受け入れる術(すべ)。その学びは、他人を愛することの恐怖心も取り除いてくれるのだった。

『バンジージャンプする』

恋愛

生まれ変わった亡き恋人は、男子高校生

一人の男の前に、今は亡き恋人が輪廻転生して再び現れたら?ともすればありがちな設定だが、その生まれ変わりがかつての女とは似ても似つかぬ男子高校生であるという点において、本作は一線を画している。果たして彼は受容できるのか。愛が試される。

『ビッグ・フィッシュ』

親子愛

父を受け入れ、物語を自分のものにするために

いつも話を誇張しホラ話で人を楽しませるのが大好きな父親と、そんな父に反発する息子。父のように生きられない息子の葛藤を通して、物語とは何か、という深遠な問いが投げかけられる。物語を必要とする人たちへの、ティム・バートンからのとっておきの贈り物。

『イン・ハー・シューズ』

兄弟姉妹愛

あなたが大嫌い、でもとてつもなく愛してる

生真面目だが恋は苦手な姉と、男には困らないが仕事が見つからない妹。正反対の姉妹は、大喧嘩をしながらも愛によってしっかりと手を結び合う。この映画を観るたび、相手を受け入れるとは自分を愛することでもあるのだと気づかされる。詩の朗読シーンには毎回号泣。

『タレンタイム〜優しい歌』

友情/人情/恋愛

互いの違いを認め一つになる瞬間を描く

多民族、多宗教ゆえに起こる分断。運命の恋の相手とも、仲良くなりたいクラスメイトとも、「自分とは違う」というだけでうまく向き合えない。だけど舞台の上で音楽を奏でるその一瞬、すべての壁が消え、みなが一つになる。その一瞬をいつまでも覚えていたい。

『人生はビギナーズ』

親子愛/恋愛

父の人生を受け入れることで、自らも成長する

38歳のオリヴァーの父は、母が亡くなった後、75歳にしてゲイであることをカミングアウトする。最初こそ戸惑っていたオリヴァーはしかし、人生を謳歌する父の姿に勇気づけられ、受け入れる。そして、その父の姿は恋愛に臆病だった彼の背中を押すことにもなるのだった。

『君への誓い』

夫婦愛

夫の記憶を失ってもなお、結婚生活は継続可能か?

交通事故で記憶を喪失したペイジは、夫であるレオのことも忘れてしまう。それでもなお、2人は結婚生活を継続できるのか。前途は多難だ。しかし、かつて車中でレオが放屁した際、窓をあえて閉めすべてを受け入れるという行為で愛を表現していたペイジなら、きっと……。

『わたしはロランス』

恋愛/友情/人情

トランスジェンダー女性とその恋人の名づけ得ない愛

ある日、フレッドはボーイフレンドのロランスから秘密を打ち明けられる。自分は心と体の性別が一致しておらず、女として生きたいのだ、と。動揺しながらもロランスを応援することに決める彼女。恋人や友達といった名づけを必要としない愛の形がここにはある。

『セレステ∞ジェシー』

夫婦愛/友情

コントロールできない現実が、柔軟な思考へと導く

コントロールフリークのセレステは、不甲斐ない夫を一念発起させるために離婚を提案するが、真に受けた夫が別の女との間に子を授かってしまったからさぁ大変。仕事の失敗も重なり、コントロールし切れない現実を思い知る彼女は、夫の第二の人生も受け入れるのだった。

『LIFE!/ライフ』

人情

自分の人生を受け入れるため、男は冒険に出る

グラフ誌『LIFE』の写真管理部で働くウォルター・ミティは、冴えない現実から逃避し、あり得ないような波瀾万丈な日々を空想してばかりいる。そんな彼が、ある男を探すため本物の旅に出る。いくつもの冒険の果てに彼が見つけたのは、自分の人生の美しさ。

『あさがくるまえに』

人情

臓器移植をめぐるそれぞれの葛藤と選択

他者を受け入れ自分の中に取り込むこと。まさに「受容」によって成り立つ臓器移植というテーマを扱った本作は、事故で脳死状態になった少年の家族、移植コーディネーター、心臓の提供を待つ女性、おのおのの葛藤を丁寧に映し出す。少年が過ごした朝の美しさに救われる。

『未来よ こんにちは』

人情

混乱を受け入れ未来へと真っすぐに進んでいく

長年連れ添った夫から、突然離婚を切り出されたナタリー。母の認知症が進み、仕事も行き詰まり、もう嫌だと弱音を吐きつつも、彼女は決して後ろを振り向かない。人生の混乱をただそのままに受け止め前へ前へ進んでいく。その先にはたしかに未来への光が差してくる。

『マチルド、翼を広げ』

親子愛

別々に生きることもまた愛の形の一つ

どうやっても人生とうまく付き合えない母。そんな母をどうにか自分の隣に引き留めようと奮闘する少女の姿が、あまりにせつない。どれだけ愛していても、愛しているからこそ一緒には生きられない。この映画は、別々に生きることが新しい愛の始まりだと教えてくれる。

『アイ・フィール・プリティ!人生最高のハプニング』

自己愛/恋愛

そのままの自分を肯定する、セルフラブの重要性

容姿に自信がなく卑屈な性格のレネーは、頭を打って意識を失う。目覚めると、容姿は変わらないものの、自分が美しくなったと感じ、周りからも尊敬を集められるように。自分の人生を変えたければまずそのままの自分を肯定すること、つまり、セルフラブが大事なのだ。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

人間愛

宿命を受け入れ誰かのために生きること

スーパーヒーローはみな自らの宿命を引き受ける存在なのだと、『スパイダーマン』シリーズを観るたびに実感する。マルチバースも、別のピーター・パーカー=スパイダーマンも、時に役立たずの自分も受け入れ誰かのために生きること。それがスパイダーマンの宿命だ。

『フェイブルマンズ』

家族愛

それぞれの幸福を認めることで見えてくるもの

スピルバーグの映画作りの源泉を知ることができる極上のエンターテインメントでありながら、根底にあるのは、愛し合いながらも別々の方向を向き始めた家族を受け入れる受容の物語。母の選択を認めた少年は、現実の残酷さを映し出す映画という魔もまた受け入れる。