脳が恋心を知るのは
1歳半頃のこと?
脳はとても不思議な器官で、ひとときも同じ状態、つまりスタティックではなく変わり続けています。とはいえほかの臓器と同じように、成熟するタイミングはあり、脳の場合は前頭葉が完成する10代後半とされています。
この部位が発達するに従って脳は感情を細やかに把握できるようになる。おおざっぱに分類していた気持ちが、言語の働きを通して、より具体的に自分自身の欲求が理解できるようになるのです。
では、そもそもいつから人を好きになるのか?というと、もちろん個人差がある。しかし、その芽生えは生後1歳半くらいの頃に見出せます。
この頃、鏡の中の自分を自分だと認識できるようになり、同時に他者認識もできるようになっていくといわれています。自分がこの世界にただ一人の存在であることを知ることで、他人を求める気持ち、つまり恋心が生まれるのです。
脳は新奇性を
求め続ける
脳は好奇心の塊で、新しいものが大好き。だから前述したようにいつまでも変わり続けるんです。それは、この世界をうまく生きていきたいという本能のようなもの。経験したことがない、びっくりするようなことが起きると、脳はトラウマになるくらい記憶させます。同じようなことが起きたらそれを思い出して対応できるようにするためです。
新型コロナウイルス感染症を考えてみても、スペイン風邪やペストに関する書物が今に残っているのは、人類が脳の本能に従って記録してきたからだと言えます。「新しいことを学ぶこと」は脳の根本的な欲求なんです。
脳の学習曲線が
恋の行方を左右する
学習という意味では、恋は人間の心について多くのことを教えてくれます。「一目惚れ」を例にとって考えてみましょう。というのも私自身、さらわれてしまったかのように恋に落ちるんです(笑)。
自分自身を丸ごと相手に委ねてしまうような感覚があります。このとき脳では司令塔である前頭葉の働きが一時的に下がることが知られていて。つまり相手に物事の判断を委ねている状態です。その人がどんなふうに物事を考えているのかを、相手と一体化することで学ぼうとしているんですね。
「一体化」は恋に限らず、宗教やアイドルなどカリスマ的存在のフォロワーになっているときにも当てはまる。「好き」という感情に乗っ取られ、前頭葉を丸投げした状態です。
それほどどっぷり惚れた人にも“冷める”ことがある。これは学習曲線が飽和した状態を言うのかもしれません。学びはないと脳が判断し気持ちが離れていくんです。とても薄情なことですが、これも学ぶ本能がある脳だからこそだと言えます。
脳は扁桃体で
恋に落ちる
脳はいろんな部位が関わり合って働いているので、切り分けて考えるのはとても難しいのです。あえて言えば、恋をするときに働く部位として「扁桃体」と「大脳皮質」の2つが挙げられます。
扁桃体は感情の中枢といわれていて、咄嗟の判断を下すときに働きます。人類の脳に古くから備わっている部位です。
一方、大脳皮質はゆっくり詳細に物事を観察し、合理的に思考します。道端に落ちているロープが目に入ったときに「なにこれ?(もしかするとヘビかも?)」と危険を察知して反射的に体が動くのは扁桃体の働き。それから「なんだヒモか」と処理するのが大脳皮質です。
この2つは双方向にやりとりをします。一目惚れは「この人は重要かも!」とまず「扁桃体」がキャッチ。「大脳皮質」がのちのちその理由を考察して恋が進む。
逆に時間をかけて友達から恋人になる場合、「大脳皮質」で「この人はこんなときにこんなふうに振る舞うんだ」とジャッジされた情報に、あるとき突然「それってすごく良い!」と「扁桃体」が反応し、感情的に恋に落ちる。このどちらの場合もあることがわかっています。
脳は恋人と友達の
違いを知っているか?
まず、恋人と友達は脳の中では別の存在です。有名な実験に、「狂おしいほどの恋をしている人に、親友と恋人の写真をそれぞれ見せたときの脳内活動の調査」というのがあります。
わかったのは、恋人を見るとき批判する回路の働きが弱くなっているということ。そして、脳の報酬系が強く働いていること。写真を見るだけで嬉しくなっちゃうんですね。恋人と友達、好きは好きでも脳内では働いている部位が異なるのです。