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テレビドラマが描く、時代の恋愛模様「恋と、ドラマ」〜後編〜

バブリーな恋を楽しんだ80年代から、同棲して家ご飯の2020年へ。テレビドラマは、時代ごとに移り変わる恋の姿を描き、憧れや恋愛観を映し出してきた。お茶の間で我々は、どんな胸の高鳴りや切なさを体験してきたのか。「テレビドラマが描く、時代の恋愛模様「恋と、ドラマ」〜前編〜も読む」

Illustration: Goro Nagashima / Text&edit: Asuka Ochi

西森路代

キムタクが主演として大きかったのは、『ロングバケーション』(13)と『ラブジェネレーション』(14)ですね。

『ロンバケ』は、ドラマの出来、毎週観たい気持ち、リアリティなどの、バランスの良い作品でした。社会的な一面もあって、ヒロインが無職になってから始まるモラトリアムを描いた作品で、バブルが弾けて不況だけど、そこまで絶望的でもない、当時の東京の空気が記録されていると思います。

キムタクが住む雑居ビルも、トレンディではないものの、新たなオシャレさがあったし。夜遊びもディスコではなく、クラブに変わりましたね。経済的というより、文化的な豊かさを感じる作品で、恋愛ドラマとして、それまでと違って革新的だった。この作品でキムタクは、アジア中のポップなスターになりましたね。

戸部田誠

かっこいい男といえばキムタクで、みんなキムタクを目指しました。木村拓哉風のボソボソしゃべるリアリティある演技もここで確立され、以降の俳優の主流に。この月9ブーム後、2000年代からは、あまり恋愛ドラマのヒットはなかった気がしますね。宮藤官九郎や木皿泉が出てきて群像劇が多くなります。

西森

『やまとなでしこ』(15)は、結婚しないといけない圧はあったけど、女性の裏表や本音を描いた意味では、新しかったと思います。女だって欲望に真っすぐで悪いか、というような、ぶっちゃけや自虐的な要素は以降、増えた印象があります。

戸部田

漫画原作も目立つようになりますね。昔は子供向けだった漫画原作を大人が観られるものにしたのが『花より男子』(16)。どう考えても漫画的なキャラクターを、演出方法も含め、トンデモにならずに演じられる俳優が出てきたのも大きい。この頃から、どんな漫画でもドラマ化できてしまうようになりました。

西森

ちょっと月曜ドラマランドの世界に戻った感じもありますね。イケメン総出演の群像劇が多くなったことで、若手俳優が増えたのもこのあたりから始まったんでしょうね。

1997年から2005年までのTVドラマのイラスト

リアルとファンタジーが
交錯するドラマ模様

戸部田

2010年代に入ってからは、坂元裕二作品がヒットしました。『最高の離婚』(17)もそうですね。

西森

恋愛ドラマで震災を扱ったり、リアルを極めた時代の始まりです。

戸部田

リアリティが重視され、とことん突き詰められましたよね。一方で最近は、それに疲れた人に昭和的なファンタジー感のあるドラマが受けているシーンもありますね。

西森

飛び道具的なキャラクターや、現実にない泥沼があると、SNSが盛り上がる。目新しさとして昭和なキーワードを取り入れた作品にも注目が集まっています。昭和のドラマを知る人は『M 愛すべき人がいて』(18)の田中みな実のキャラクターに『スチュワーデス物語』(8)を思い出したはず。

3〜4年前から、昼ドラでやっていたような作品を夜ドラでやる流れができつつあって、『M』は、テレ朝のナイトドラマであった鈴木おさむの『奪い愛、冬』(19)や、『ホリデイラブ』(20)などの系譜ですね。

何年かに1回は、『新・牡丹と薔薇』(21)のような昼ドラテイストのものが流行る現象がありますね。リアリティ路線は『最高の離婚』後、野木亜紀子が現れて、さらに極まることになりました。

なかでも『逃げるは恥だが役に立つ』(22)は、誰にでも受け入れられるとっつきやすさがあり、それと同時に社会的な問題を扱い、両方の側面を描いて楽しませることで、ドラマを一歩進化させた。胸キュンを真っ向からやったので幅広い視聴者に受けました。その後、胸キュンをやれるだけやったのが『恋はつづくよどこまでも』(23)でしょうか。

戸部田

胸キュン、やっぱいいじゃん、って(笑)。しかも、まさか佐藤健が演じるとは、というところをあえてやった。俳優の自己プロデュース力も上がってきていますよね。山田孝之もそうだし、それに自覚的な俳優も増えている。役者主導に変わっていくことで、ドラマ自体にも影響があるでしょうね。

西森

今後は『きのう何食べた?』(24)のように恋愛の多様性を扱うものも、もっと増えていくのではないでしょうか。ジェンダーやフェミニズムを扱った作品も増えています。最近だと、『妖怪シェアハウス』(25)もそうでした。自己肯定感の低いヒロインが、妖怪と出会うことで怒ったり、何かに夢中になったり、自分を解放できるようになる。

戸部田

海外と違って、日本のドラマは1人の脚本家が1作を書くのが基本になっている。そういう土壌としての豊かさも関係していますね。

西森

作家性のある脚本家も増えていますしね。今、海外作品に関心を寄せる人も多くなっていますけど、日本の恋愛ドラマも面白いんだということがもっと知られるといいなと思います。

2016年から2019年までのTVドラマのイラスト

西森路代の「恋の、答え。」

「マイベスト恋愛ドラマは、王道だけど『ロングバケーション』。ひょんなことからの同居、ケンカしながらも近づいていくセオリーの始まりでは。個人的に6話で初めてキスシーンのあるドラマはいいドラマだと思っている(笑)」

戸部田誠の「恋の、答え。」

「『101回目のプロポーズ』は武田鉄矢主演でコミカルな演出を入口に敬遠していた恋愛ドラマの魅力を最初に教えてくれた」