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テレビドラマが描く、時代の恋愛模様「恋と、ドラマ」〜前編〜

バブリーな恋を楽しんだ80年代から、同棲して家ご飯の2020年へ。テレビドラマは、時代ごとに移り変わる恋の姿を描き、憧れや恋愛観を映し出してきた。お茶の間で我々は、どんな胸の高鳴りや切なさを体験してきたのか。

Illustration: Goro Nagashima / Text&edit: Asuka Ochi

テレビを愛する2人のライターが
日本の恋愛ドラマ史を振り返る

戸部田誠

恋愛ドラマと呼べるものが誕生したのは80年代前半。それまでサスペンスものや家族ものに恋愛要素はあったものの、脚本家の鎌田敏夫さんも、自身が手がけた『男女7人夏物語』(1)まで、純粋な恋愛ドラマはなかったとインタビューで答えています。

その時期に恋愛ドラマが生まれた背景には、『ふぞろいの林檎たち』(2)や『北の国から』(3)のような大人のドラマと、月曜ドラマランド(4)や大映ドラマ(5)などの子供向けのドラマとが明確に分かれて、視聴者層が違ってきたのがあると思うんです。

西森路代

木村拓哉も10代ではティーン向けのドラマに出ていましたが、『あすなろ白書』(6)くらいから、学生ドラマも幅広い世代の人にも観られるものになりましたね。『ふぞろい』にも恋愛要素があり、個人の生きづらさがリアルに描かれていて、現代のドラマに通じる部分もありました。

『男女7人』には、ウォーターフロントがやたら出てくる。『抱きしめたい!』(7)もそうでした。『ふぞろい』の辛気くさいリアリティから急にあり得ないくらいきらびやかな世界になったという共通点があって、ノリが似ているんですよね。

戸部田

トレンディドラマに必須の3要素は、ロケ地、衣装、音楽といわれています。当時、話題のスポットで撮ることが意識されていたし、リアリティがなくてもいいから、憧れを着ることを念頭に、それまでの衣装さんの仕事を、きちんとスタイリストを付けてやっていました。

西森

『男女7人』の冒頭は、大竹しのぶが昨日の記憶がないままにベッドで起きたら明石家さんまの家だったというシーンですが、今だとない始まり方ですよね。電話も家にいないと取れなかったから、デートの約束を取り付けるのに、みんな会社にかけていた(笑)。

恋愛経験のない保守的で純粋なキャラクターとともに、めちゃくちゃな遊び人も描かれていて、恋愛の重さと軽さみたいなものの両方を感じましたね。当時はお見合い結婚も多かった時代ですから、朝起きたら男性の家というのもそこまで一般的ではなかったでしょうし、そこが新しかったのでしょう。

7人の中で、別れたり付き合ったり、自由恋愛みたいなものが、初めて市民権を獲得した時代だったんだろうなと思います。

戸部田

フィーリングカップル5vs5を参考に3対4で7人にしたらしいんですけど、そういうバラエティノリみたいなものも、作品の明るさにつながっていると思うんですよね。

『抱きしめたい!』も友達同士でありながら、1人の男を取り合うというジメッとした設定が、カラッと明るくかっこよく描かれていました。物語の後半では女2人が連帯する流れになったりもして、世の女性像を大きく変えた作品でした。

『ふぞろい』と同じ年の『スチュワーデス物語』(8)の頃は、女性像も全然違って、なぜ慕っているのかわからない教官を愛し、男に頼って耐え忍んでいたのに。

西森

教官をめぐって女性たちが熾烈な争いをするのですが、当時は女性の幸せは結婚相手で決まると思われていたので、あんなに必死にライバルと争っていたんでしょうね。まぁ、当時もなんか変だな、というふうには見ていましたが(笑)。

戸部田

恋愛ドラマというよりは、とんでもない設定や、めちゃめちゃな恋愛を楽しむものでしたよね。

1983年から1986年までのTVドラマのイラスト

ドラマのような
恋に憧れた90年代

戸部田

バブルが弾けたことも影響しているといわれますが、トレンディドラマって、実は2年ほどしか続かなかったんです。その後、『すてきな片想い』(9)などの純愛路線の作品が出た後で、『東京ラブストーリー』(10)が大成功した。原作では関口さとみが主人公だったのを、ドラマで赤名リカに変えたのは、女性観の変化としても象徴的です。

いわゆる個性派で脇役的な存在が、主人公として支持され、逆にさとみを演じた有森也実がバッシングを受けるという出来事もありました。

西森

劇中で、永尾完治が赤名リカのことを「重い」って言うんですよ。今だと絶対に、家庭的なさとみの方が重いですよね。カンチはリカの奔放さ、圧のようなものを、俺が受け止めるのは無理という意味で「重い」と言っている。「重い」の意味が違うんですよね。

令和版では「カンチ、セックスしよ!」という内容のセリフよりも、「カンチが欲しくなった」の方が印象に残りました。

戸部田

後退しているかも(笑)。

西森

当時、織田裕二のほかに、反町隆史や吉田栄作もよく出ていました。『もう誰も愛さない』(11)のような復讐あり裏切りありの、ハラハラ系で激しい作品が、ゴールデンで放送され、毎週続きが気になって仕方がない状況でした。

戸部田

この時期は、映画よりドラマがブームを引っ張っていた記憶がありますね。『101回目のプロポーズ』(12)も浅野温子の相手役を武田鉄矢にするというなかなか考えられないキャスティングでヒットした。バブルが弾けていくなか、不器用な男の純愛が受けた。出川哲朗でリメイクしてほしいです(笑)。

西森

ムロツヨシでなく(笑)。そして、この後、本格的に木村拓哉の時代に入りますね。SMAPがシングル1位になったのは1994年だけど、『あすなろ白書』(6)はその前年なんです。主役は筒井道隆で、キムタクは控えめな眼鏡の二番手。

1991年から1993年までのTVドラマのイラスト