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数十年から濃密なひとときまで。「愛って、時間」な映画20選

時間が経つことで育まれる愛があれば、終わっていく愛もある。過ぎ去った時間そのものへのノスタルジーや、共に過ごした時の長さが一つの愛になっている物語も。数十年から濃密なひとときまで、時の流れによって表現される愛の物語を紹介。

本記事も掲載されている、BRUTUS「愛って。その答えが見つかる名作映画300」は、好評発売中です。

illustration: Yoshimi Hatori / text: Rie Tsukinaga

『雨月物語』

恋愛/夫婦愛

時間を超越した者たちの愛と欲望の物語

旅の途中、男は世にも美しく妖しい女と出会い、時間が経つのを忘れ快楽に耽(ふけ)る。やがて目が覚めた男は数年ぶりに家に戻り、変わらぬ姿の妻=亡霊と再会する。夫を待ち続けた妻の無限の愛の物語ともいえるが、むしろ愛に惑わされ時間を超越した者たちの物語と呼びたい。

『浮雲』

恋愛

どん詰まりの2人が過ごす、あてどのない旅

戦地で心を通じ合わせた男と女。だが戦争が終わり日本に帰れば男は家庭に戻るだけ。過ぎ去った時間はもう戻らないとわかっていても縋らずにいられない女と、彼女の思いをずるずるとやりすごすずるい男。別れを引き延ばすしかできない2人の旅路はどこにも行き着かない。

『乳房よ永遠なれ』

恋愛

生きることへの愛を手放さない女のありよう

若くして乳がんを患った歌人、中城ふみ子の半生を田中絹代が映画化。不幸な結婚生活を送り、病に倒れた後も、ふみ子は短歌を作ることを諦めず、「生」にしがみつく。残り少ない時間の中で彼女を支えたのは、自分を理解してくれた男との恋、そして生きることへの強い愛だ。

『めぐり逢い』

恋愛

不幸なすれ違いを繰り返し続ける恋人たち

喜劇でも悲劇でも、恋愛劇は大抵すれ違いによって作られる。豪華客船の旅で出会いエンパイアステートビルでの再会を約束した恋人たちも、やはりすれ違いを繰り返し無駄な時間を積み重ねてしまう。すべてのすれ違いが解消されるラストシーンは涙なしでは観られない。

『5時から7時までのクレオ』

恋愛/友情/人情

生きる喜びと愛を取り戻すまでの2時間の記録

病院での検査結果が出るまでの2時間、クレオは死の予感に震えながら街をさまよう。恋人も友人も、自分を愛してくれていると信じていた人たちは誰もこの恐怖を理解してくれず、心を通じ合えたのは、偶然出会った帰還兵だけ。彼女が生きる喜びと愛を取り戻すまでの記録。

『シェルブールの雨傘』

恋愛/友情/人情

戦争に引き裂かれた若い恋人たちの過ごした時間

アルジェリア戦争の最中、結婚を約束した若い恋人たち。だがそんな2人を戦争が引き裂いてしまう。男が「待っていてほしい」と望んだ時間は、子を孕んだ女には長すぎた。別れと絶望、そして再会。彼らが過ごした激動の時間がたったの6年だったことにも驚かされる。

『ラヴ・ストリームス』

恋愛/兄弟姉妹愛

愛は流れ続け、決してとどまることはない

「愛は流れのようなもの」というジーナ・ローランズの言葉通り恋人のような姉と弟(実際の夫婦が演じているのだから当然か)の関係は、時間の流れとともに刻一刻と変化する。大声で怒鳴り合ったかと思えば大笑いする2人。愛とは何なのか、それは永遠の謎かもしれない。

『恋人たちの予感』

恋愛

美しい友情がやがて愛に変わるまでの11年間

最初の出会いは最悪。2度目もやっぱり最低。3度目の出会いで何でも話せる親友になったサリーとハリー。だが季節が巡るたび、彼らの関係は徐々に変化する。11年という時間をかけて友情を築いた2人の間に、やがて愛が芽生えるまでを描いたラブコメ映画の金字塔。

『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』

恋愛

長い年月をかけて描かれるある不幸な愛の物語

19世紀後半のNYの社交界を舞台に、3人の男女の愛の行方が長い年月をかけて描かれる。突然現れた一人の女性に心を奪われた男は、彼女との愛を望みながら、最後には元いた場所へと戻っていく。自分の属する社会から逃れられなかった男の悲劇は、子へと語り継がれる。

『そして僕は恋をする』

恋愛

恋人と過ごした時間の中に自分自身を発見する

博士論文が書けず自分を見失うポールは、10年来の恋人エステルと別れ、ほかの女性たちの間をさまよい歩く。だが彼は最後にある真理に気づく。自分の存在を作り上げるのは誰かと過ごした時間そのもの。ポールとは誰か、それはエステルと10年過ごした男のことなのだ。

『ブエノスアイレス』

恋愛

腐れ縁のゲイカップルの、恋が終わるまでの日々

喧嘩と復縁を繰り返す腐れ縁のゲイカップル。怒鳴り合い、めそめそと泣き濡れる2人を見ていると、恋が終わっていく過程はいつもみじめで滑稽なものだと実感する。それでも2人が過ごした時間は決してなかったことにはならない。恋が終わり、また新たな恋が始まる。

『8月の終わり、9月の初め』

恋愛/友情

あらゆる人間関係は時間によって変化し続ける

タイトルにまず痺れる。ヨーロッパでの新学期の始まりは9月。つまりこれは、ある関係が終わりまた次の関係が始まるまでを捉えた映画だ。恋愛に限らずあらゆる関係は時とともに変化し続ける。残酷にも思えるが、その変化が時にこのうえなく美しい瞬間を生み出す。

『ビフォア・サンセット』

恋愛

タイムリミットの中で見えてくる9年の歳月

旅先で出会った2人はウィーンで一晩を過ごし1年後の再会を約束。9年後、パリで再会した2人は日没までの時間を過ごすことに。限られた時間の中で交わす会話から9年間の人生が浮かび上がるさまに感動する。常に時間の経過を扱うリンクレイターが送る最高の恋物語。

『百年恋歌』

恋愛

3つの異なる時代を生きる3組の恋人たち

1966年、1911年、2005年。3つの異なる時代の恋人たちを、すべてスー・チーとチャン・チェンが演じた異色の恋愛映画。時代が変われば、人物像も出会い方も結末もすべてが変わる。だがどの時代の恋人たちも、時代に翻弄されながらたしかな愛を育むだろう。

『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』

恋愛

互いに逆行する時間を生きる2人の愛の物語

老人として生まれ、年をとるごとに若返っていくベンジャミン・バトン。一方、彼が恋した相手は、みなと同様に少女から老女へ向かう。2人の年齢が一致するのは、長い人生のうちわずかな時間にすぎないが、その一瞬の幸福を胸に2人はそれぞれの時間を生きていく。

『テイク・ディス・ワルツ』

恋愛/夫婦愛

女の愛と果てのない欲望の行き着く先

善良な夫と魅力的な男との間で揺れ動く妻というありがちな物語を通して、女の愛と欲望の行方を描いた傑作。日常の先にある現実をこれでもかと見せつけるサラ・ポーリーは実に過激だ。ぐるぐると回り続けるカメラが映す残酷な時間の流れに、ぜひ絶望してほしい。

『オルメイヤーの阿房宮』

親子

決して手に入らない愛を求めてさまよう父と娘

金鉱の採掘に夢中になり、いつしか狂気に陥るオルメイヤー。彼が愛を注ぐのは幻の金と娘のニナだけ。だが娘への執着はどこまでも利己的なものにすぎない。愛を求めながらそれぞれにあてどない彷徨を続ける父と娘の壮大な物語。ラストシーンの長回しにも驚愕。

『光りの墓』

人間愛

土地に堆積した記憶から生まれる、壮大な物語

謎の「眠り病」が蔓延するタイ東北部の村で、次々に眠りに就く兵士たち。夢の中で土地に堆積した記憶の層に触れた彼らは、やがて幻想の旅に出る。土地が持つ記憶から、人間が歩んできた長い歴史と壮大な愛が見えてくる。アピチャッポンらしい記憶と夢の幻想譚。

『ようこそ、革命シネマへ』

友情/映画愛

映画への深い愛と友情で結ばれた老映画作家たち

国の政治的混乱の中で、製作の自由を奪われて続けてきた4人の映画作家たち。長年苦闘を続けてきた彼らが、故郷スーダンに映画館を復活させようと奮闘するさまを捉えたこのドキュメンタリーを観れば、4人の長年の友情と、映画への深い愛がたしかに伝わってくる。

『aftersun/アフターサン』

親子愛

記憶の中で辿り直す、在りし日の父と娘の絆

父と過ごしたある夏の日々を振り返りながら、主人公は今の自分と家族のあり方を見つめ直す。記憶の中の父の姿がかつてのそれと違って見えるのは、自分がすでに年を重ねたから。時間を積み重ねたことで見えてくるものを、せつなくも丁寧に映し取った記憶のドラマ。