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東京にある〈手帳類図書室〉で、他人の「手帳類」を覗き見る

閑静な住宅街の路地裏に、とんでもない図書室がある。こぢんまりとしたギャラリーの一角に鎮座する〈手帳類図書室〉だ。知らないダレカの書いた手帳や日記、ノートなどを読む機会は、そうそうあるものではない。それらを収集し、公開しているのだ。

Photo: Jun Kato / Text: Motoko Saito / Edit: Asuka Ochi

通常の読書では得られることのない、
奇妙な読後感。

日記や手帳は、人に見せることを前提としないプライベートの塊であり、極みだといえる。ゆえに個人の内面はダダ漏れし、通常は人前で発露させない、淀みのような「怒り」や「欲望」などの赤裸々な記述も、噓偽りなく、はばかることなく書きつけられる。

そんな手帳類に着目し、収集、はては図書室まで開いた「手帳類コレクター」の志良堂正史氏は語る。

「最初に興味を持ったきっかけは、東宏治さんの著書『思考の手帖』です。著者の30年分の日記を起こしたもので、とても好きな本。もっとたくさん個人の日記を読みたいと思った」

本職はゲームのプログラマー。完成された「なにか」より発展途上や途中経過のものからゲームの素材になるヒントを得られるのではないかと思ったそう。

ネットのSNSなどを通じ、1冊¥1000、内容により¥2000ほどで日記やノートを買い取り、読み進める。やがて「誰が読んでも面白いのでは?」と思い至り、売り主の了承を得たうえで、2014年に公開することを決めた。図書室は4人も座ればいっぱいになってしまう狭小なスペースのため、入れ替えを促す意味も含め、1時間につき¥1000の入場料を払うシステム。

まずは、手帳類の持ち主の性別、イニシャル、年齢、職業、書かれた年などの簡単なプロフィールと、志良堂氏の主観による感想、おおよその内容について書かれた目録に目を通し、その中から読みたいものをスタッフに告げ、箱から出してもらう。この目録だけでも、既に強烈な面白さだ。

コレクションは1‌0‌0‌0冊に到達。
もっと研究したい。

他人の日記や手帳などを読んでいると、普通の「読書」とはまったく異なる感覚がつきまとう。生身の肌に触れているような気恥ずかしさ。奇妙な高揚と背徳感。そこに書かれた愛も毒も涙も人生も、正真正銘の本物だからこそ得られる読書体験である。

「個人の記録を読むことはヒリヒリした感覚がある。生々しすぎて気持ち悪い、という人もいる。のめり込みすぎて疲れる人もいる。2〜3時間読むと、グッタリして帰る人も多い。自分は、もう少し冷静に見ています」

最初の頃は、頼み込んで譲ってもらっていたコレクションだが、ネットなどを通じ「買い取ってほしい」と自ら声をかけてくる人も増え、収集を始めてから3年間で、ついに1000冊に到達した。膨大な手帳類を読む志良堂氏のなかでは、独自の価値判断基準も生まれてきている。

「より私的、プライベート性の高いものが読みたい。見たことのないアプローチ、逸脱、技法。その人ならではの独特な理論や、まだ固まらない考え中の理論。特殊だったり個性的な文体に惹かれ、グッとくる」

今後やってみたいのは「感想つき図書カード」だそう。読んだ人はどう感じたのか、自分以外の人の解釈をもっと集めたいと考えている。ごく私的なはずの「手帳類」を、多角的に楽しむための倒錯、背徳的な楽しみはさらに深みを増し、広がる。