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〈Sage〉〈Worm〉ロンドンの次世代フローリスト

長らく保守的だったイギリスのフラワー業界だが、ここ数年でアウトサイダー的フローリストが次々と誕生。型にはまらず、自由に花をアレンジするだけでなく、働き方や社会のあり方も変えていこうというミレニアル世代のフローリストたちだ。ロンドンから、共に女性2人が始めたスタイルの異なる2軒を紹介する。

Photo: Miki Yamanouchi / Text: Megumi Yamashita

サブカル的な花を提案する
フラワー界のラディカルズ

あらゆるバックグラウンドの人が隣り合わせる、サウスロンドンのペッカム。多国籍な店が並ぶ通りにある〈セージ〉は、飲食の仕事をしていたアイオナ・マサソンと、医療系の仕事をしていたロミー・セントクレアが「好きな花を生業に」と立ち上げたフラワーショップだ。

フラワースクールに通う余裕もない2人は、無給インターンなどで基本技術を習得。あとは自分たちの感性を頼りに、ポップアップから実験的に始めたところ、2人が作る個性的で型破りな花束は予想以上に人気を得た。エッジーなブランドやイベントなどからどんどん依頼が舞い込み始め、スタジオも兼ねて2018年にこの店を開店。ポール・スミスなど、有名ブランドともコラボする売れっ子になっても、目標は地元の人に愛される花屋さんだ。

ロンドン 花屋 Sage
欠けた部分を補い合うよう、の呼吸で花を生けていく2人。

「色とテクスチャーの組み合わせを重視した彫刻的なアレンジが私たちのスタイルかしら。多彩な色とフォルムが彫刻的なアンセリウムはよく使うわね。日本のイケバナも大好きで参考にするけど、あちらは何年も修業を積むハイカルチャーでしょ?私たちが目指すのはサブカルチャーで、アウトサイダー的な花を打ち出してます」

アイルランドの妖精が宿る
メランコリックな花の世界

花や自然にまつわる神話や妖精伝説が色濃く残るアイルランド。元スタイリストのケイティ・スミスと元女優のテリー・チャンドラーは共にアイルランド出身。共通の友人を通してロンドンで出会い「花と本が好き!」と意気投合。そこで2人は「本と花束のデリバリー」のネットショップを開設する。贈りたい人の基本情報から本を選び、花束と共に届けるというサービスだ。2人の丁寧な仕事ぶりはクチコミ的に評判となり、イベント用の花などの仕事が入り始める。2016年にイースト・ロンドンに〈ワーム〉を立ち上げると、間もなくパーティからショップやホテルの花のディスプレイまで、大忙しの日々が待っていた。

ロンドン 花屋 Worm|元女優テリーさん
手際よく美しいブーケを作る姿が絵になるテリーは元女優さんだ。

2人がデザインする花はロマンティックでメランコリック。「インスピレーションの源は子供時代を過ごした南アイルランドの緑や海辺の風景など。ピンとした元気な花だけでなく、枯れゆく花や雑草も同じように美しいことを表現したくて」と、ドライを生花と共にアレンジすることも多い。「人間も自然に老いていくことが美しいとする風潮になればいいと、花を通して提唱するプロジェクトも進行中です」

もちろんサステイナビリティにも気を配る。「イベントなどで使った花はボランティアが運営する〈フローラル・エンジェル〉に回収してもらうと、ブーケにして介護施設などに届けてくれるんですよ」。花に宿る妖精がお手伝いしている、そんなムードのフローリストである。

そう言う2人は概して間口が狭いイギリスのフラワー業界にも一石を投ずるべく、無料ワークショップで次世代のフローリストの育成を行っている。フラワーパワーで社会も変えようという元気なフローリストなのだ。