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テクサスの才人をご紹介しましょう。『Live In Texas』ライル・ラヴェット。バラカンが選ぶ夏のレコード Vol.18

ピーター・バラカンが選ぶ32枚のレコードストーリー。「ピーター・バラカンがオーナーのリスニングバー〈cheers pb〉で夏にかけるレコードの話を聞きました」も読む

illustration: TAIZO / text: Kaz Yuzawa

『Live In Texas』Lyle Lovett(1999年)

テクサスの才人をご紹介しましょう。

ライル・ラヴェットというミュージシャンは日本ではカントリー・シンガーのように思われがちですが、そんなことはなくて、ジャズやゴスペル、ブルーズなどの要素を採り入れた、とても洗練された曲を書くシンガー・ソングライターです。

また彼はライヴでの音作りも丁寧で、自身の「ラージ・バンド」を持っていて、バック・ヴォーカルにもいつも素晴らしいシンガーを起用しています。この「ビッグ・バンド」(特定の古いタイプのジャズのイメージ)ではなくて「ラージ・バンド」(ただ単にメンバーの数が多い)というセンスが独特で、今回おすすめの一曲に選んだ「If I Had A Boat」の歌詞を見てもわかるように、きっと楽しい人なんだろうと思います。

ほかにも彼は映画俳優としても活躍していて、あの群像劇の巨匠、ロバート・アルトマン作品の常連です。個性的な外見を生かした渋い演技を見せています。

日本ではアルバムが最初の2、3枚しか出ていないせいもあってあまり話題に上がりませんが、アメリカでは3,000人規模の会場なら常に満杯にできるくらいの人気があります。ちなみにこの『Live In Texas』でも要になっているピアニストのマット・ローリングズは去年、30年ぶりに(!)ソロ・アルバムを出しました。

彼はかなり多くのシンガーのレコーディングやライヴに参加している人で、彼のアルバムには相当豪華な顔ぶれのゲスト・ヴォーカリストがフィーチャーされています。ライル・ラヴェットも2曲で参加していて、あとはウィリー・ネルソンやアリスン・クラウスやランブリン・ジャック・エリオットが肩を並べています。

選曲の理由はあくまで海とボートの夏っぽいイメージでしたが、この手の音楽は日本ではあまり耳にする機会がないので、敢えて今回紹介させてもらいました。
僕はこれまでに2度ほど、アメリカへ行った時にライル・ラヴェットとニア・ミスをしています。僕が着いた前日に、その街でライルがライヴをやっていたりとか、思わず地団駄を踏むような経験をしました。いつかぜひライヴを観たいミュージシャンの一人です。

Lyle Lovett

CD-5:「If I Had A Boat」

♪もし僕がボートを持っていたら、海へ遊びに行く。そしてもし僕が馬を持っていたら、馬をボートに乗せる。♪突飛な歌詞だけれど、ちょっと意味深。贅沢というものをライル・ラヴェットならではの感覚で皮肉ったポップでクスッと笑える名曲です。彼はそんなセンスの持ち主なんです。