橋本麻里
本のもとになったのは『芸術新潮』の連載です。橋本と山本が書き、設計の三井嶺さんにも寄稿をお願いしました。一冊にまとめるにあたって、〈森の図書館〉
と名づけられたこの場所をどう運用していくのか、本のある空間では一体何が起こっているのかという点をメインに加筆。そのあたりの経験については、山本に一日以上の長があるので手厚く書いてもらいました。
山本貴光
なぜこの場所にたくさんの本があるのかというところから始めると、気になるものは入手して手放すことはめったになく、新しい本も毎日届く。そうしてどんどんたまっていくというわけです。電子書籍も使いますが、実利的な意味で紙でなければうまく読めないものがあるんですよね。
橋本
造本に淫して手に取る本もありますが、基本的には本とは読むもの、使うもの。物質としての特徴がフックになって記憶と結びつくものなので、やはりこの形態でないとうまく使いこなせません。広げて眺められるという紙ならではの一覧性も重要で、家の中心となる閲覧室には2×1.8mの卓子を2台並べることになりました。
山本
本が置かれた空間はデバイスのスイッチを入れなくても常にそこにあって、自然と目に入ってくる。目的を決めて検索するのとは違ったインデックスのような使い方や、関心事に応じて本が呼びかけてくるような結びつき方って、デジタルの環境ではまだうまくいかないというのが実感です。
橋本
デジタルの良さというのももちろんあって、画像を拡大したいとき、図録を大量に担いでいくわけにいかないときにもありがたい。それぞれを使い分けています。
山本
この本にも書いたように、毎日届く本を写真に撮って記録しているんですが、最近は書影にある文字まで検索できるアプリがあるんですよ。例えば「歴史」で検索をかけると、タイトルはもちろん帯の文言からも抽出してくれる。こういった技術の進展はとてもありがたく思っています。
橋本
私と山本それぞれの興味に加えて、2人に共通していたり新たに興味を持ったりしたジャンルもあって、2人分の蔵書が一緒になったことで興味の画角が広くなったという感触があります。数万冊の本がありますが、ここには茶の湯の美術、あのあたりに学問の歴史が集まってるね、と星の屑が重力に引かれていくようにして、本が置かれる場所に収まっていくんですよね。
山本
数が多くなればなるほど見つけやすさが重要で、今考えているのは、作家で政治家でもあったアンドレ・マルローが提示したLe Musée Imaginaire(空想美術館)じゃないですが、本の表紙の写真やデータを名刺くらいの大きさにしたものを作ることです。デザインがよければトレーディングカードのように集めたくもなるだろうし、人と話すときにテーブル上に並べたり、考え事をするときに床に広げたり。カードの裏にはQRコードでも入れて、書誌情報や内容にアクセスできるようにすることもできそう。記憶に刺激を与えてくれるものとしても、デジタルアムネジアに抗(あらが)うという意味でも役立つと思います。
橋本
出版社が統一のフォーマットで、紙の本に1枚ずつそのカードを挟んでくれたらいいですよね。作ってくれないかなぁ。
山本
書影だけならばすぐできそうですし、まずは自分用に作ってみるつもり。いずれはオリジナルの蔵書票も作りたいですね。
