Wear

Wear

着る

かたくなな職人の手仕事とモードが共存。〈レ ユッカス〉の靴作りの哲学とは?

目利きのバイヤーやスタイリストの注目を集める〈レ ユッカス〉。繊細で美しい独特のフォルム、職人の手による質実剛健な作り、人間工学から生まれる履き心地。靴作りの哲学とは?

photo: Davide Dainelli / text & edit: Naoko Sasaki

村瀬由香さんがイタリアで立ち上げたブランド〈レ ユッカス〉。そのきっかけは、熟練の靴職人エンツォ・ボナフェ氏との出会いだった。

「ミカムというイタリアの靴の展示会に彼が出展していて、素敵な靴だなと思いました。これこそが“イタリア”だと。日本人の私にとって手で靴を作るというのは、ものすごく感動的な出会いだったんです。その後、自分がデザインした靴の製作をお願いしながら、ハンドメイドを学びました。

彼の工房では、昔ながらの製法、例えばハンマー叩きやコテでの目付け作業など、時間も手間もかかって今では誰もやらないような工程をもかたくなに守り続けている。手をかけて作られたものにはインダストリアルにはない迫力がある。作り手の愛情も魂も込められているし、オーラがあると思います。私も一通り、片足ぐらいは作れますよ。1週間はかかりますけど(笑)」

スタイリングの一部になる道具としての靴を目指して

履き心地の秘密は独自の木型に。
「プロのアスリートシューズを手がけていた時に学んだ人間工学のノウハウを生かしています。最も重視しているのは骨格や関節などの構造と、歩くという動き。スニーカー足と呼ばれる土踏まずのない現代人の足でも履きやすいように、約2年かけて新しい木型も開発しました」

〈レ ユッカス〉コインローファーと木型
現代人の足に合わせて2年かけて研究した木型、その名も「NICE」。木型に直接デザインを描くのが村瀬さんのスタイルだ。右が完成品のローファー「Y36023」。

デザインで一番大切にしているのは“誇張をしないこと”だそう。

「長く履いてもらえるようデザインポイントも極力控えめに。そのうえで、クラシックな靴とは異なる“独特の微妙なバランス”の追求、それが私の考えるモード感です。そのために、紙の上ではなく、木型に直接デザインを描きます。革の剥ぎや縫い目が骨や神経に当たらないよう配慮して。私の靴は、誇張を抑えて幅広いスタイルに対応する、要するに雑貨ですよね。スタイリングを助ける便利な道具であってほしい。“歩きやすいしコーディネートしやすい。やっぱりこの靴はかっこいい!”。そんな存在でありたいですね」

もの作りには余裕が必要だと語る。
「研究をし、いろいろなことを感じながらデザインするために、ほかの仕事をかなり減らしました。クリエイティブって辛いことではいけない。気持ち良くないと!そんな中で生まれるスタイルを重視したいのです」

大人の必需品について聞いてみた。
「クオリティを理解したうえで身に着けるものを選ぶ。そんな必需品であり、道具としての〈レ ユッカス〉の靴を常にイメージしています」

〈レ ユッカス〉コインローファー
ハンマーで靴の表面を叩くという「ほかではどこもやっていない」独自の工程。革の毛穴を伏せることで元の色や質感に戻り、強度も出る。爪先の短いローファーは「Y36023」。