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「ラジカルにして普遍的」お笑い芸人・ヒコロヒーが語る、中島みゆきのうた

音楽に夢中になるきっかけはいつだって、テレビの中でスポットライトを浴びながら歌うスターたちだった。その輝きはいつまでも色褪せない。お笑い芸人・ヒコロヒーの歌謡曲レジェンド、中島みゆきについて。

Illustration: Naoki Ando / Text: Izumi Karashima

〜おまえは丼に顔つっこんで〜
こんな歌詞、誰が書けます?

幼い頃、ドラマ『家なき子』で中島みゆきという人を認識したと思うんです。主題歌「空と君のあいだに」で。その後、20歳ぐらいのときだったと思いますけど、「うらみ・ます」を知ったんです。「うらみますうらみます あんたのこと死ぬまで」。とんでもない歌があるんだなと(笑)。

そこから興味を持っていろいろ聴くようになったら、どんどんハマっていって。本当に体験した出来事を基に、身を削るように作ってるんだなと思わせるところに惹かれるというか。もちろん、そんなことはただの作り話かもしれない。でも、彼女の言葉にはそれを体験した人じゃないとわからない感情が宿ってる。だいたい、失恋ソングってきれいに表現してしまいがちやと思うんです。醜い部分を直視するのはつらいから。でも、みゆきさんは正直に歌う。

「うらみますいいやつだと 思われなくていいもの」と。それやからフラれるんちゃうの、こんな女イヤやもん、と思ったり(笑)。「ルージュ」っていう歌があるんです。「口をきくのが うまくなりました どんな酔いしれた人にでも」「つくり笑いがうまくなりました ルージュひくたびにわかります」と。私も水商売が長かったんでわかるんです。スナックで歌うたびにママに怒られました。「客がいるときに歌うんじゃない」って(笑)。そう、スナックでは、よう歌いましたね。「化粧」「ファイト!」「悪女」とか。

「悪女」も大好きな歌。好きな男の人の前で悪女を演じるという歌で。中でも、「女のつけぬ コロンを買って」はすごい詞やなって。つまり、男の人に「あんただけじゃない」っていうのをわからせたくて、女がつけない男用のコロンをつける、でも、本当はあなたが好きなのにっていう。この気持ち、すごくわかるなあって。20歳ぐらいの頃は、こういう気持ちをあらわにするのが恥ずかしいと思ってたけど、30代になって思ったんです。みゆきさんの言葉は普遍的やなって。一見ラジカルに思えるけれど、最大公約数になり得る言葉だなって。

年齢を重ねて、味わい深く感じるようになったのが「蕎麦屋」。友達から電話がかかってきて、「べつに今さらおまえの顔見てそばなど食っても仕方がないんだけれど」一緒に蕎麦を食うっていう歌で。若い頃は、意味がよくわからなかったんです。蕎麦屋なのに「くやし涙を流しながらあたしたぬきうどんを食べている」ことの意味が。でも、芸人になり始めの頃、ホントに手に取るように意味がわかったんです。「世界じゅうがだれもかも偉い奴に思えてきて 
まるで自分ひとりだけがいらないような気がする時」っていう、まさにその通りの日々を過ごしていたし、どうでもええ男友達とメシを食べに行って愚痴をこぼす日々でしたし。

「おまえは丼に顔つっこんで」という言葉も絶妙。こんな歌詞、ほかの誰のどんな曲を探してもないと思うんです。

そういう意味でいえば、「あのさよならにさよならを」も。これもすごい詞で。「予言者は化粧のように あやふやな明日を綺麗に飾る 立ちすくむ私たちには あらすじもなく予告篇もない」。すごくないですか? 雄々しくたくましい。賞レースの後にいつも聴いてました。予選落ちを繰り返していた時代に。

中島みゆきさんの楽曲は数がすごく多いので、こういうときはあの曲を聴こうとか、自分の人生に彩りを添えてくれるんです。十余年、好きでずっと聴いてますが、まだまだ知らない曲があるので、出会うのが楽しみです。

Hiccorohee’s Favorite

「蕎麦屋」

作詞・作曲:中島みゆき、編曲:後藤次利、中島みゆき。1980年リリースのアルバム『生きていてもいいですか』収録。当時、ラジオ番組内で所ジョージとのゲームに負け「『蕎麦屋』という曲を作って歌え」と言われて書いたという説も。