横山大介(サスクワァッチファブリックス デザイナー)
紹介してくれた人:スケートシング(グラフィックデザイナー、〈C.E〉デザイナー)
Q
あなたは、いつ、どこで、センスを学びましたか?
A
難しいですね。一つ言えるのは、人とのコミュニケーションの中で、生きるための知恵を身につけたということ。それはセンスも、ファッションもすべて同じです。相手との会話や息が通ったものの熱量を感じ取り、同じく、自分もそれを感じ取ってもらう。その行き交いを、無欲で、純粋に積み重ねることが、いつか自分の指針となるのだと思います。まぁ、本を読んだり、机に向かったり、学生時代にした勉強も“人生を学ぶことを、学ぶため”の基礎体力作りなんだろうな。
Q
あなたのセンスの学び場と思う人を教えてください。
A
南ちゃん(南塚真史さんの愛称)かな。今の自分のベースになっている、“10年、20年先まで考えて今と向き合うこと”を教えてくれた人です。美術史に精通する彼の時間の捉え方は、服作りをする上で大きな影響を受けました。東京のアートシーンを牽引する彼の取り組みの一つ一つが僕の学びとなり、お互いに刺激し合える関係です。
南塚真史(ナンヅカギャラリー オーナー)
Q
横山大介さんからあなたに“学んだ”と言われていますが、率直なご感想は?
A
そもそもアートとファッションにおける時間軸が違うので、その事実をヨッピー(横山大介さんの愛称)が新しい発見として捉えただけかと(笑)。
Q
あなたは、いつ、どこで、センスを学びましたか?
A
既存のルールや価値基準に迎合しないで中指を突き立てている人たちが生み出すものにこそ、次の時代のヒントがあると思うんです。それを注視してみると、気づきや学びは、いつ、どこにでも転がっています。だから大事なのは、世間が決めた常識をあまり鵜呑みにしすぎないこと。例えば、私が専門とするアートシーンでは、アートが消費の軸に乗る商業的なアプローチを評価しない風潮があります。
しかし、早くても50年前からの史実を学問とする美術史において、現代美術はそもそも孵化する前の卵のようなもの。だから、詭弁法的に言うと、ファインアートと商業アートを区別すること自体がナンセンスなんです。こんなの今の時代に見せられないってものこそ、実は見ておくべきもの。そう信じています。
Q
あなたのセンスの学び場と思う人を教えてください。
A
同じベクトルで話ができる、椿(玲子)さん。保守的な日本のアートシーンにおいて、グローバルな視点と感性を持つ稀少なキュレーターです。日本のアートの今後を担う人だと思います。
椿玲子(森美術館 キュレーター)
Q
南塚真史さんからあなたに“学んだ”と言われていますが、率直なご感想は?
A
南塚(真史)さんと同じ、カルチャーが入り乱れた90年代を謳歌した世代なだけです。日本のアートを担うだなんて……。
Q
あなたは、いつ、どこで、センスを学びましたか?
A
自分と違う考え方や価値観を持つ人、また他分野で活躍する人との出会いが大きかったと思います。そして、音楽やカルチャーに関する“遊び場”で自分なりのセンスを培ってきました。どちらも、今の日本社会で最も欠けていることかもしれません。
私が、大学で専攻した“モード論”は、過去、現在、未来が一本の道のように繋がっているという直線的な時間軸がその基底にありつつ、それがスパイラル状に進むというもので、渦の中にいると、進んでいる道が蛇行していることにはなかなか気づけなかったりもする。時代や現状を俯瞰視できる能力も、センスの一片です。そのためには、(上記に挙げた)2つのことが大切だったと、今になって感じます。
Q
あなたのセンスの学び場と思う人を教えてください。
A
遊び上手で良い生活を知っている(鈴木)陸三さん。単にラグジュアリーというわけではなくて、シンプルでいつも自然体。決して、身なりで人を判断しません。おそらく、良い笑顔をしているかどうかで人を見るタイプです。
鈴木陸三(サザビーリーグ ファウンダー)
Q
椿玲子さんからあなたに“学んだ”と言われていますが、率直なご感想は?
A
もう70歳過ぎなのに上から目線というのがどうも苦手で。誰とでも目線を合わせて、できるだけ普通でいたい。もっと誇張すれば、自然体でいたいと思って過ごしてきただけですよ。
Q
あなたは、いつ、どこで、センスを学びましたか?
A
何が学びだったかは一概には言えませんが、環境の違う人に囲まれて育った10代の人間形成でしょうね。逗子の商家の生まれで、戦後は出稼ぎに来る人がたくさんいました。土地柄、ホワイトカラーの家庭の子が友人だったり、(石原)慎太郎さんと一緒にヨットをやったりね。英語が話せないのに半年間、世界を放浪したこともありました。そんな経験の中で、世代、国籍の違う人でも動じず自然体でいる術を身につけたのだと思います。
80年代にアニエスベーを日本に持ってきた時は、デザイナー本人とえらく気が合って、黒澤映画を観ながら語り明かしてね。どんな相手も見た目でジャッジしないし、最後に笑顔で別れられたら、それでいい。センスの良し悪しよりも、気持ちのいい人であることが人生においては重要ですよ。
Q
あなたのセンスの学び場と思う人を教えてください。
A
初めて会った日から変わらず、いつも自然体なのが、ローラン(・グナシアさん)。親子くらい年は離れていますが、25年来の友人です。
ローラン・グナシア(クリエイティブディレクター)
Q
鈴木陸三さんからあなたに“学んだ”と言われていますが、率直なご感想は?
A
リクさん(鈴木陸三さんの愛称)が僕を⁉信じられない。彼はむしろ僕の「日本の父」のような存在ですから。そして、生きることや老いること、家族のこと、本当にいろいろな話ができる、とても良き友達でもあります。ノービジネスでね(笑)。
Q
あなたは、いつ、どこで、センスを学びましたか?
A
いつ、どこで学んだかは断定できません。自分にとって好きではない人や仕事というのはよくわかっているけれど、ベストもワーストもない。ただ、クリエイティビティとは何かと考えた時、それは才能でも美学でもなく、一見関係性のないように見える点と点を繋げる力だと思う。つまり、自由であれ、ということ。自分を制限してしまわないことだね。
何が正解かはわかりませんが、考え続けなければ。それが人生じゃないかな。ファッションにおいても自由でいたい。誰がどんな服を着ているか、自分が人からどう思われているかは気にしません。それが僕のスタイルです。
Q
あなたのセンスの学び場と思う人を教えてください。
A
(中山)ひとみさんは、すごく自由で、シンプルで、純粋。こんなにユニークな人はめったにいませんよ。大手銀行の社長との打ち合わせにTシャツにジーパン姿で行ったりして(笑)。簡単には、規則に従わないところも面白いですね。
中山ひとみ(主婦、三木山流星群 代表)
Q
ローラン・グナシアさんからあなたに“学んだ”と言われていますが、率直なご感想は?
A
日本人以上に、日本人らしい心配りと身のこなしのできて、とても顔が広いローラン(・グナシアさん)に推薦していただけるなんて!光栄です。
Q
あなたは、いつ、どこで、センスを学びましたか?
A
センスって、すべての人が動物的な本能として生まれ持っているものだと思います。それが、何かをきっかけに、顕在化するか、そうでないか。私の場合、30代の時に父からかけられた“身の丈”という言葉の存在が大きかった。捉え方は色々とありますが、自分のキャパシティを知り、自分らしくいることなのかなと。それは、他者と比較する必要がないという意味も含んでいると解釈して、日に日に心の奥へと浸透していきました。
何事もメインストリーム(主流)と、フリンジストリーム(支流)があって、物や人を運ぶ主流に対して、そこから溢れ出たものを支流がカバーしていく。前職のMD時代に心がけていた、川の流れのように物事を捉えるという信念を曲げずに15年間貫くことができたのも、この言葉があったから。
Q
あなたのセンスの学び場と思う人を教えてください。
A
手前味噌になりますが、夫(三木均さん)でもいいですか?立場で物事を捉えず、“身の丈”をきちんと体現している。どんな人にも寛容で、そのスタイルを貫く強さを持っている。
三木均(リシュモン ジャパン 代表取締役社長)
Q
中山ひとみさんからあなたに“学んだ”と言われていますが、率直なご感想は?
A
まさか妻(中山ひとみさん)から推薦とはね。隣に適任そうなヤツがいただけだと思うけど(笑)。
Q
あなたは、いつ、どこで、センスを学びましたか?
A
心を突き動かされた経験値が、人のセンスに直結すると思うんです。そういう意味で、エモーショナルな(ファッションの)現場は、学びに溢れていました。特に90年代前半は、面白くて仕方なくてね。92年頃のジャンポール(・ゴルチエ)のショーを観て、泣いたもんなぁ。日常でこんな感動あります⁉
ある秋冬シーズンに、ジャンポールがコートを作らなかったことがあって。ブティックからの批判も、彼の“今の気分だから”の一言で、(周りは)That's ALL。そうやって、ファッション主導でトレンドのみならず時代を作り、それを人が追いかけてきた。時代のせいにしてはいけないけど、ビジネス至上主義の今はファッションが“学び場”と呼ぶには、程遠いものになっている。その責任の一端は当然、我々にもある。昔に戻りたいとは思わないが、現代なりの形でファッション本来の姿を取り戻したい。
Q
あなたのセンスの学び場と思う人を教えてください。
A
有賀(昌男)さんは同世代の中でも、特に好奇心の塊みたいな人。クリエイティビティを生かすことに、本当に熱心な方だと思う。
有賀昌男(エルメス ジャポン 代表取締役社長)
Q
三木均さんからあなたに“学んだ”と言われていますが、率直なご感想は?
A
好奇心が旺盛なのは、三木さんも同じ。今、世界で何が起こっていて、時代がどう動くか。グローバリズムの中でチャレンジする時、共通言語を持った仲間が近くにいるのは、心強いですね。
Q
あなたは、いつ、どこで、センスを学びましたか?
A
過去も、現在も、これからも、服を通じて多くの学びを得ていくと思います。それは、ファッションが常に時代とともにあるから。エルメス社内に“すべてが変わり、何も変わらない”という、社是のようなものがあります。新しい価値観や潮流を受け入れて形を変えても、職人技とクオリティへのこだわりは脈々と受け継がれるという考えです。
世の中のスピード感が目まぐるしい今だからこそ、この言葉のように、自分の軸となる規律と柔軟さを併せ持つことが必要だと感じます。
Q
あなたのセンスの学び場と思う人を教えてください。
A
私が指名したいのは、服を愛するすべての読者の方々です。例えば、言葉が通じない相手でも、お互いの趣味嗜好を分かち合える力が服にはあります。そして、異文化や偏見という壁を乗り越えるエネルギーもある。グローバル化が進む社会の中で、自分を自由に解放するためにセンスを磨いてください。必ずや、ファッションがあなたと世界を繋ぐ“マジックワード”になるはずです。