教えてくれた人:鴻巣友季子(翻訳家)
“総合力”を意識する。
(英語)
誰もが一度は学んだ経験がある英語。次のステップとして日常会話ができるようになれたら、と思う人も多いだろうが、「日常会話こそ一番難しい」と翻訳家の鴻巣友季子さんは話す。
「学者さんたちも国際学会などで専門的な話はできても、懇親会での雑談が困ると聞いたことがあります。たとえTOEICが高得点でも流暢な英会話は難しい。地道に学び続けましょう。
言語には読む、聴く、書く、話すの4技能がありますが、中でも“話す”は総合技能です」
その際に怠ってはいけないのは読み書き。鴻巣さんは続ける。
「子供は耳から語学を習得できますが、大人はそうはいかない。表現の幅を広げるためにも、読み書き学習が必須です。例えば短編の洋書を読むか、筋をあらかじめ理解している映画等のノベライズ本を読むのがオススメです。書く力は、ネイティブとメル友になれるサービスを活用してみては」。そして次に取り組むのが、聴く耳を育てること。
報道番組や政治家のスピーチは聴き取りやすい。
「そのほか定番ですが、英検のリスニングテキストも有効。3級から2級の問題を繰り返し聴いて、耳を慣らしましょう。オンラインのマンツーマン英会話を活用するのも手ですね」
総合力を身につけるための勉強法。
【聴く】海外の報道番組を観る。
「ホームドラマはハイコンテクスト。学生を対象にした報道番組は話題がはっきりしていて聴き取りやすいです」と鴻巣さん。CNNのStudent News、BBC Learning Englishなどを速度を調整しながら聞いてみよう。
【読む】ヘミングウェイの短編を読む。
「中でも『雨の中の猫』や『白い象のような山並み』は登場人物が少なく読みやすい文章量です。文学を読みながら文法も学べる『ヘミングウェイで学ぶ英文法』もオススメです」
【書く/話す】「推し」をテーマに練習をする。
「漠然としていては身につかない。例えばあなたの“推し”など熱く語れるトピックがあると学びが深まります」。ポイントはマニアックな知識を議題にすること。戦略や作品の批評など、相手とディスカッションする気持ちでトピックを投げてみよう。
ラテン語から取りかかる。
(欧州の諸言語)
教えてくれた人:黒田龍之助(言語学者)
イタリアにスペイン、ドイツ、ロシア、と旅先に人気のヨーロッパ諸国の言語は、自ずと学びたいと考える人も多い。しかしそれらの多くに共通する、名詞や形容詞の格変化や動詞の活用は、馴染みのない日本人を大いに苦しめる。
言語学者の黒田龍之助先生が提案してくれたのは、ラテン語を学習することだ。
「ラテン語はヨーロッパの古典語。直接性質を受け継ぐフランス語やスペイン語はもちろん、格変化が多いので、ロシア語をはじめとするスラブ系の言語にも応用できるんです。
難解ではありますが、話すことを想定しない分、まずは文法に集中できるので、少し学ぶだけでほかの言語の習得が早くなりますよ」
一見遠回りにも思えるが、コロナ禍の今だからこそ有用なのだと黒田先生は続ける。
「以前の語学は、いかに現地で実用的に学ぶかが勝負でした。ですが今は現地に行くのは難しい状況。だから現代語はいったん置いておいて、古典語で基礎を作るのも手だと思います」
さらに、「ラテン語がわかれば、歴史への理解も深まり教養になります。ディズニーランドにだって、ラテン語がありますよ。見える世界も変わると思います」と黒田先生。視野を広げるのにもってこいの勉強法だ。
習得にオススメの参考本2選。
台湾華語(南方訛り)から習得する。
(中国語)
教えてくれた人:田中佑典(生活芸人)
台湾文化から語学を学ぶ教室〈カルチャーゴガク〉を主宰する、田中佑典さん。独学で中国語を身につけ、現地の人とコミュニケーションを取れるまでになったという。
中国語は地域によって訛りが異なり、北京語、上海語など様々に分類されるが「日本人が覚えやすいのは台湾華語(南方訛りの中国語)なんです」と田中さんは話す。主に台湾で話され、香港、東南アジア、中国大陸でも通じる言葉だという。
「まず、発音が日本語のカタカナに似ているので聴きやすいし、話しやすい。中国大陸で使われる中国語は声調と呼ばれる発音が厳格で、巻き舌なども難しいですが、台湾華語では、巻き舌音はそこまで多用されません。
また、中国大陸は簡体字という簡略化された文字ですが、台湾華語は繁体字。使われる漢字が日本の旧字体と近いので覚えやすいんです。
日本の熟語と作りも似ていて、看板や本などは、初見でも何となく読めると思います。ハードル低くはじめ、コツコツ続けることが言語習得の要。近道はなく、壁すらも楽しむ気持ちで学びましょう」
台湾華語の問題集や、専門コーナーが用意されている本屋さんもあるとのこと。まずは一冊、手に取ってみよう。
カタカナ発音で覚える、
空耳中国語。
クルアーンを教材にする。
(アラビア語)
教えてくれた人:中田考(イスラム法学者)
20ヵ国以上の国や、国連の公用語として話されているアラビア語。習得のために、まずはイスラム教の聖典クルアーンの暗記を中田さんは提案する。
「新しい言語を学ぶ時に大切なのは、最初に全体像を掴むこと。文法を一つずつ覚えていっても、途中で自分の進捗がわからなくなり挫折してしまうことが多いのです。クルアーン第1章を暗記することで、まずは言葉の響きに慣れましょう。
次に暗記した音を、文字で覚えます。第1章に全28字のアラビア文字のうち、ほとんどが出てきます。発音、文字、言葉の構成を掴んでから、文法や会話の勉強に移ります」
イスラム教は世界中多くの人が信仰している。その聖典を読むことで、宗教の教義に触れることもできる。
「言語は習得することが目的ではなく、その先が大切。アラビア語を身につけ、イスラム教の原理を理解すれば世界情勢を理解することにつながり、より視野が広がるでしょう」
クルアーンにまつわる2教材。