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実直に、ペースを変えず20年。音楽シーンで孤高の地位を築く、Lampにインタビュー

デビューして20年。年数に見合うほど作品数は多くない。ライブの本数もほかのバンドに比べると極端に少ない。派手にメディアに登場することもなく、大型タイアップやヒット曲があるわけでもない。それでも音楽フリークたちからは熱狂的に支持されている。しかもそのサークルは日本を飛び越え、海外からのラブコールも絶えない。とにもかくにも、Lampほどユニークな立ち位置のバンドはいないだろう。このたび、配信オンリーで、20曲入りというボリュームのニューアルバム『一夜のペーソス』を発表。まさに彼らの“サージェント・ペパーズ”であり“ホワイト・アルバム”ともいえる傑作だ。デビューから本作の制作に至るまでのことをメンバーの3人に聞き、Lampの謎を紐解いてみたい。

photo: Kazufumi Shimoyashiki / text: Hitoshi Kurimoto

染谷大陽

僕は高校でフォークソング同好会に入っていたんですが、2年生の時に、永井が入部してきて、なんとなくこのまま一緒に音楽をやりたいなと思ったのが最初です。

永井祐介

染谷先輩と仲良くなって「俺んち来なよ」って言ってくれて遊びに行ったんですけれど、いきなり「何か録ろうよ」と。ジョン・レノンの「マザー」を録音したのを覚えていますよ(笑)。

染谷

その後、大学に入った時に友人に「誰か趣味の合いそうな女性ボーカルいない?」って紹介してもらったのが香保里さんだった。

榊原香保里

私は歌の経験がなかったんです。でも、私も会ってすぐに歌を録音させられて(笑)。

染谷

サイモン&ガーファンクルの「フィーリン・グルーヴィー」だ。

榊原

その時に初めてハモリができて感激したのを覚えています。

染谷

当時僕らは日本の音楽をほとんど聴いていなくて、香保里さんにはっぴいえんどとシュガー・ベイブを教えてもらったんですよね。

永井

キリンジのファーストもね。

染谷

まだバンド名はなかったんですが、Lampはその時からメンバーも変わっていないですね。ライブは1年くらい経ってから、西麻布の〈マグナシー〉という小さなバーでイベントをやるようになったんです。

榊原

バーのマスターと仲良くなって「やってみたら」って言われて。

染谷

DJ&ライブイベントみたいなことをやって、その2年後くらいにCDを出すことになったんです。それからもう20年ですからね。ずっとペースが変わらない(笑)。

永井

僕らほど大きな起伏がなく、階段状に少しずつ上っているバンドはないかもしれないですね。

海外のリスナーの熱狂

染谷

敢えてターニングポイントを挙げるなら、2年ほど前に「ゆめうつつ」という曲が急激に再生されるようになったことかも。どうやらTikTokで使われるようになったみたいで。ただ、自分たちが何かアクションを起こしたわけではないから、実感はないんですけど。

永井

バンドで活動していて、いわゆる成功体験ってしていないんですよ。CDが売れてお金が儲かったとかもなくて。でも、ライブでアジアに行ったらすごくたくさんの人が来てくれて、でも聴いているのはYouTubeや違法ダウンロードだったりするんですよね。「いつもYouTubeで聴いてます!」って悪びれずに言われて(笑)。

染谷

そういうこともあって、僕らは2018年からサブスクを解禁したんです。もともとレコードやCDなどのパッケージが好きだったから、当初配信には懐疑的だったのですが、ツールは何であれ聴いてもらうことが大切だと考えました。

榊原

私は配信とかぜんぜんわからなくて。インドネシアに行った時に、携帯電話で音楽を聴いていて、どうやって音楽が聞こえているのかがわからなかったくらい(笑)。

染谷

そもそも海外で聴いてくれている人たちって、どんな人なのかよくわからないんですよ。僕のSNSをフォローしていない人たちがほとんどだし、なぜその楽曲が聴かれているのかというのもよくわからない。「A都市の秋」という曲も、なぜか海外のゲームの配信動画で使われて人気になったようです。最初はサブスクでも一番再生回数が多かった。

永井

海外で人気になる曲の傾向として、ドラマティックな展開の「エモい」曲はあまり好まれないというのもある気がします。

染谷

そこは日本のファンとも微妙に違いますね。

Lampのメンバー。永井祐介、榊原香保里、染谷大陽
左から、永井祐介(ボーカル、ギターほか)、榊原香保里(ボーカルほか)、染谷大陽(ギターほか)。

人生は一瞬の夢のよう

永井

今回の『一夜のペーソス』の制作はきつかったですね。僕は本当に曲が作れなくて。

染谷

1年くらい待ったんですけど全然作ってくれなくて、こんなに時間が経ってしまったんです(笑)。おかげでその間にできた曲を集めて、20曲入りのアルバムになりました。

榊原

タイトルの「ペーソス」は、「夢」みたいな言葉が何かないかって言われて思いついたんですよ。昔の小説や文芸批評によく「ペーソス」って出てくるから、それがいいんじゃないかって。わかりにくいしやっぱり違うかなと思ったんですが、大陽がすごく気に入っちゃって。

染谷

去年、母が亡くなったんですけど、介護していた時に「一生ってどうだった」って聞いてみたんですよ。そうしたら「一瞬の夢みたいだった」って言ったんですよね。それって自分が若い頃から考えていたこととすごく共鳴して、今回のアルバムも一夜の夢のような作品にしようと考えたんです。今回はアルバムの後半に重要な曲が集まっているかもしれないですね。アナログで言うとC面、D面に当たるパートです。

永井

その後半に「月世界旅行」という曲があって、Aメロがずっと同じビートとメロディが続くというか、単調で少し和な感じというか。僕らの曲はコードチェンジが複雑なイメージが強いと思うんですが、真逆のアプローチをしていて、Lampとしてはとても新しいと思います。

染谷

僕らの音楽は大幅に変化するわけではないんだけれど、それでも毎回新しいことをしないといけないっていう気持ちはあります。

榊原

私は歌詞に関して、本当に苦労をしていないんですよ。2人が苦しみながらいい曲を書いてくれているから、私はただ楽しんで言葉を乗せるだけ(笑)。今回気に入っているのが「秋の手紙」と「古いノート」。特に「古いノート」は、まさか自分が学校や教室のことを書くとは思っていなかったから。

永井

僕も気に入っています。そのあたりも新しいかもしれない。

染谷

僕らはもともとインドア派だったから、ほかのミュージシャンほどコロナ禍の影響はなかった。でも、母が亡くなったり、永井の家の猫が死んだり、そういったムードは反映されている。Lampは年々、死のイメージが濃厚になっていますね。結果的に大作になったけれど、全部吐き出したというのが今の感想です。

永井

ただ好きなことをやっているのがLampのスタンスですから。

染谷

でも、永井は常にネガティブで、しょっちゅう引退するって言っています(笑)。

永井

だって音楽を作ること自体、すごいことじゃないですか。他人事みたいだけど、毎回俺なんかにできないって思うんですよ。

榊原

私はLampのことが大切すぎて秘密にしておきたい。みんなに聴かれるとちょっとやだ(笑)。

染谷・永井

(苦笑)。

『一夜のペーソス』
10月10日に配信リリースされた5年ぶりのアルバム。当初は演奏クレジットなどの情報がすべて伏せられたまま発表された。現在はバンドキャンプや染谷のSNSで詳細を公開中。

これまでのアルバム全9作品から配信で再生回数の多い一曲を振り返る

『そよ風アパートメント201』(2003年)/「部屋の窓辺」(作詞:染谷大陽、作曲:染谷大陽)
作曲をしたのが2001年2月、結成から1年経った頃。今このアルバムを聴くと演奏や録音が稚拙に聞こえるが、その中ではうまくいった方じゃないだろうか。海外ではこういうボサノヴァ調の曲が好まれるのかもしれない。(染谷)
『恋人へ』(2004年)/「恋人へ」(作詞:永井祐介、作曲:永井祐介)
もともとアルバムは7曲収録の予定でしたが、制作終盤に冒頭の曲として付け加える形になりました。2017年の中国ツアーの際に初めてこの曲に人気があることに気づきました。改めて聴いてみると確かに良い曲でした。(永井)
『木洩陽通りにて』(2005年)/「夜風」(作詞:榊原香保里、作曲:染谷大陽)
リリース直前になって、アウトロのコーラスを2dbほど上げたくなってしまい、既にプレス済みの数千枚のCD盤をすべて廃棄したという申し訳ないことがあった。MOTEL BLEU佐久間さん、どうもありがとうございました……。(染谷)
『残光』(2007年)/「ムード・ロマンティカNo2」(作詞:榊原香保里、作曲:染谷大陽)
なんだか白けるエイプリルフールを思い切りロマンティックな歌にしてみたくて、色々妄想した曲。フランス語を隠し味に使ったのですが、大陽のお母さんだけがその意味を指摘して、なかなかしゃれてるわね、と言ってくれました。(榊原)
『ランプ幻想』(2008年)/「ゆめうつつ」(作詞:染谷大陽、作曲:染谷大陽)
とにかく自己満足のためだけに作って録った。とても気に入った曲だったが、正直世間でうけるとは思っていなかったので、「その意味で」世界的な人気曲になったことに驚いた。異質でいて、かつオリジナリティがある曲だと思う。(染谷)
『八月の詩情』(2010年)/「八月の詩情」(作詞:永井祐介、作曲:永井祐介)
人気の曲ではないと思いますが、自作曲の中では特にお気に入りです。作曲後に、自分の曲ができた!という満足感があったのを覚えています。レコーディングに関してはもっとうまくできたのでは、という後悔が残っています。(永井)
『東京ユウトピア通信』(2011年)/「君が泣くなら」(作詞:染谷大陽、榊原香保里、作曲:染谷大陽)
年老いてやさぐれ気味な毎日を過ごす人物が、純粋で切実だった昔をふと思い出して……。そんな場面を描こうとしてよくわからない感じに仕上がった曲。クイーカと鍵盤のファニーな演奏と、後半の不思議ムードがお気に入りです。(榊原)
『ゆめ』(2014年)/「A都市の秋」(作詞:榊原香保里、作曲:染谷大陽)
日本のリスナーにとって今回の中では最も「Lampらしい」曲なのかも。北園みなみ編曲との相性がバッチリだった。サブスク解禁前既に海外認知が広まっていた曲で、この曲でバンド自体に興味を持った人も多かったのでは。(染谷)
『彼女の時計』(2018年)/「1998」(作詞:永井祐介、作曲:永井祐介)
今までで一番、自分の中のJポップ的な要素を色濃く出した作品ですね。イメージとしては稲垣潤一の「夏のクラクション」あたりが念頭にあったと思う。歌詞は香保里さんが書いた「ブルー」の世界観を流用する形で仕上げました。(永井)