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ラランド・ニシダの愛すべき純文学:田中小実昌『ポロポロ』

ラランド・ニシダがおすすめの純文学を紹介していく連載。前回の「三浦哲郎『拳銃』」を読む

edit&text: Emi Fukuhima

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田中小実昌『ポロポロ』

『ポロポロ』田中小実昌

田中小実昌著。牧師の父が開く祈祷会を回想する短編小説。『ポロポロ』に収録。河出文庫/825円

何度読み返しても、わからない
「ポロポロ」の正体

言葉にならない音のような、奇声のようなものが、ふいに口を衝くことがあります。僕の場合それは「ファ」に近い音。特にスベったことや失敗したことを思い出すと、意味もなく発してしまうんです。それはつい先日も。その日は、自分が出演する連ドラの初回放送日。観ないでおこうと思っていたんですが、書き仕事の小休憩にテレビをつけたらちょうど該当シーンで。役者さんたちが繰り出す自然な演技の間で、終始ハテナマークが浮かんだ微妙な表情を浮かべる自分を観て、恥ずかしさと情けなさとで「ファ」と。この音が出ない、演技の仕事を成し遂げるのが今の目標です。

本作の登場人物たちが発する「ポロポロ」もまた、言葉にならない言葉。牧師の父のもとに生まれた主人公が、みなが「ポロポロ」と発しながら繰り広げていた祈祷会のことを回想する話です。といっても展開らしい展開はなく、記憶が淡々と綴られるところが新鮮。途中、地理の話や母の思い出へと話が横道に外れていくところも、喫茶店で誰かの与太話に付き合っているようで面白いんです。

ちなみに、4回目を読み終えた今となっても「ポロポロ」が何を指すかはわからずじまい。動詞なのか名詞なのか、使い方すらもわかりません。極め付きは最後の文章。

ポロポロで、ポロポロなのだ⁉ああ、わからん!

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