ユーモラスな空気に育まれる、ジャンル渾然一体なシーン
「自分の音楽がジャズとは思っていないから、なんだかおこがましいんだけど。父はサックス奏者のスティーヴ・コールで、彼から音楽に関することを教えてもらいながら育った。ドラムの叩き方はもちろん、基本的な楽曲や譜面の読み方なんかもね。厳格な教育を受けたわけではなく、自由奔放にやっていたと思う。
ロジカルで、本格的な奏法を習ったのは、南カリフォルニア大学へ入ってから。知っての通り、ジャズの本場はニューヨークだ。ミュージシャンたちはすごくストイックな感じで、それが音楽にも出ている。それに比べ、LAはもっと粗削りだけど、幸福感があって、常にリラックスしている。
よく知っているシンガー兼サックス奏者のジョン・キークや、鍵盤奏者のスコット・キンゼイと共演した時も、友達とわちゃわちゃ楽しんでいる感じが丸出しになっちゃっていてね(笑)。そこがLAのシーンの音楽に人間味を与えているんじゃないかな。僕自身、どんなにシリアスなスタイルの曲を作ろうと、どこかにおかしなところを入れたいと思っている。そんな人間らしいユーモアを追求することが、人生のテーマなんだ」
一緒に遊んでいた友達がいつの間にか共演者に⁉
LAの温かみに惹かれるように、個性的な音楽家が集まっている様子。彼の考えるLAのジャズミュージシャンを挙げてもらった。
「まずは、鍵盤奏者のジェイコブ・マン。サックス奏者のサム・ゲンデルやムーンチャイルドなどの作品にも参加している。キーボードの音色にはとても温かみがあるし、心地よい。ジェイコブ・マン・ビッグバンド『Greatest Hits』を聴けばわかると思うけど、すごくユーモアに溢れた音楽を奏でるんだ。しかも、どこか切ない表情もあって、深いと思うんだよね。僕のものとは一味違うけど、ユーモアのセンスが近いから、一緒にセッションしていてもしっくりくる。家も近いからお互いのレコーディングやライブに参加しているうち、ノウワーの楽曲ができたんだ」
そして、フライング・ロータスが運営する〈Brainfeeder〉のレーベルメイトであり、地元の幼馴染みでもあるサンダーキャット。
「彼のお父さん(ロナルド・ブルーナー)もジャズドラマーだから、僕と共通点も多くてさ。昔から一緒にNINTENDO64のマリオカートで遊んでいて、さっきも変なミームを送ってきたよ(笑)。彼の行動には常に驚かされるんだ。高校生の時にスーサイダル・テンデンシーズに加入したり。『スター・ウォーズ』シリーズのドラマ『ボバ・フェット』を観ていたら、あいつが出てきた時は思わず噴いたな。
音楽家としてもユーモアがあって、昨年の来日公演のようなセッションは、お互いに時間が空いた時によくやるんだけど、歌の最中にインプロビゼーションで、必ずびっくりするようなネタを入れてくる。即興演奏の面白さを追求しているところなど、彼こそ本当のジャズミュージシャンだなって」
そして、サックス奏者のカマシ・ワシントンとも馴染みがある。
「ジェイコブ・マン同様、カマシもビッグバンドを率いている。時に壮大なコーラス隊とレコーディングしているよね。LAのジャズはハリウッドが近いせいで、外連味のあるミュージカルのようなサウンドメイクが多いのも、一つの特徴かもしれない」
そんな音楽仲間の中で、最も影響を受けたのが、ドラマーのネイト・ウッドだという。
「僕が19歳の時、5人編成グループのニーボディで、ネイトのドラムを聴き、そのスタイルが衝撃で。よく彼の演奏を聴きに行き、研究したんだ。また、彼はドラマーであると同時に、シンガーでもある。僕が歌い始めたのは、ネイトの影響なんだよ(笑)。今は一緒にツアーをしたり、セッションする機会も増えたから嬉しいよ。僕のYouTubeに上げた『F It Up』という曲で、一緒に演奏しているんだ」
少しずつ形成されつつあるライブハウスの現場
では、実際に音楽家たちが集うベニューはどうなっているのだろう。
「LAのジャズシーンの問題点の一つに、クリエイティブなミュージシャンたちが集まる場所が少ないということがあったんだ。ようやく最近、〈Lodge Room〉みたいなクラブができてよかったと思う。それから〈Minaret Records〉という小さなレーベルが、若くて、まだキャリアのないジャズミュージシャンたちに演奏の場を提供するイベントを開催している。
アンダーグラウンドな場所へ、音響設備を持ち込むDIYのパーティだけど、素晴らしい試みだと思う。僕もサックス奏者のロビー・マーシャルのセッションに参加したり、ヴルフペックみたいなバンドとは共作もした。活気溢れるシーンだから、ぜひチェックしてほしいな」
最近では、トラックメーカーのマッドリブのホームであり、ニューエイジ・アンビエントの作品も発表するレーベル〈Stones Throw〉が運営に携わる〈Gold Line〉には、LAのジャズマンや、90年代ヒップホップ黄金期を築いたピート・ロックやデ・ラ・ソウルらが集っている。また、レアグルーヴを現代に蘇らせた注目のレーベル〈JAZZ IS DEAD〉が運営するクラブがオープン。ギタリストのエイドリアン・ヤングのセッションが早くも人気に。広いLAでもぎゅっと濃縮されたシーンが生まれてきている。
Los Angelesで最も熱いベニュー4選
The Baked Potato
1970年オープン。ユニバーサル・スタジオ・ハリウッドも近く、ハリウッドのお膝元にありながらも地元の人たち向けのリーズナブルな料金設定で愛され続けている老舗。こだわり続けている音響機器は、クロスオーバーの開祖であるラリー・カールトンが愛し、このお店でライブアルバムを録音したほど。
Catalina Jazz Club
ディジー・ガレスピーやチック・コリア、マッコイ・タイナーなど、錚々たるジャズマンが出演してきた、サンセットブルーバードにある伝統と格式ある老舗。アンダーグラウンドなイベントも楽しいけど、ゆっくりくつろぎながらストレートアヘッドなジャズを楽しみたい時にはカタリーナへ。
Lodge Room
ロックをはじめ、ジャズマンたちの実験的なセッションまで、幅広いジャンルの音楽が楽しめるライブハウス。伝説的なジャズマンとラッパーがコラボレートして世界中から注目を集める〈Jazz Is Dead〉のパーティを開催。また、エレクトロニカ系のDJを招聘(しょうへい)したパーティも開催している。
ETA
ジャズ&オイスターバーという、なんともLAらしい雑多な組み合わせのスタイル。地元のミュージシャンやDJはもちろん、ツアーでLAへやってきた超有名ミュージシャンがゲストでプレーするなど、話題に事欠かないベニュー。ラテンやサルサ、メキシコ音楽などで盛り上がるパーティも人気だとか。