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「食べたい、愛でたい、京の余白を持ち帰る」わざわざ買いに行きたい、京都のお土産3選

風情ある店の佇まいや、座売りや量り売りで楽しむ店主との会話、そこでしか出会えない特別な品などを目当てに、京都には、わざわざ行きたい店がある。おかずや菓子の食べる編と、うつわや工芸の愛(め)でる編より、3店を紹介。店を訪ね、試し、思い出と共に持ち帰ろう。

本記事は、BRUTUS「京都の余白。」(2025年10月1日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

photo: Kiyoshi Nishioka, Tomoyasu Nakao / text: Yuko Saito, Hiroko Yabuki

〈大黒屋鎌餅本舗〉の鎌餅

73歳の店主から、“おおきに”と手渡される餅菓子は、味もひとしお

御年73歳。あん炊きから配達、接客まで、今日も一人で店を切り盛りする山田充哉さんあっての鎌餅である。店まで出向き、50年近く作り続けてきたという粉まみれのその手から受け取れば、おいしさもひとしおというものだ。

山田さんは3代目。祖父である初代が、鞍馬口の茶店で売られていたこの菓子の製法を受け継ぎ、1897年に現在の阿弥陀寺の門前で菓子屋を始めたという。

求肥(ぎゅうひ)の生地が、まだ熱いうちにこしあんを包み、瞬く間に、豊作を願う鎌の刃の形に形作り、経木で巻いていく。軟らかく滑らかな求肥の食感はもちろん、朝の7時に釜に火を入れ、炊き上がるのは夜10時というこしあんが、これまたさらりと上品でたまらない。

〈Régis d.〉のPipelette白缶

街中の喧騒とは無縁の一乗寺で、京都が詰まったフランス菓子を

たくさんの地元の人に訪れてほしい。東京と京都の〈ピエール・エルメ〉で、長くシェフパティシエを務めたレジス・ドゥマネさんが、そんな思いから店を構えたのは、街中から離れた一乗寺。静かな工房で、ここでしか手に入らない菓子を一人黙々と作る。

並ぶのは、見た目や味のインパクトではなく、嚙むほどに素材の味が広がる滋味溢れるお菓子。材料も、できるだけ生産者の元に足を運び、納得したものを使う。

その象徴がビスキュイ缶。主役は、店内にも飾られている京都府産の小麦。その中力粉を使い、これまで培ってきた技術で焼き上げた4種には、和束(わづか)産の和紅茶の茶葉や亀岡産のそよご蜂蜜など、地の食材が詰まっている。

〈POJ Studio〉のオリジナル伝統工芸品

京都の旅の記憶のピースを和の職人技と共に持ち帰る

2025年8月に河原町近くに移転した〈POJ Studio〉は、海外からの旅行者がひっきりなしに訪れる店。スイスで生まれ育ち、米・シリコンバレーのツイッター(現X)で働いた小山ティナさんが、2017年に立ち上げたブランドの路面店だ。

商品は日本各地の職人と協働で開発したオリジナルで、開発から発信まで自社で行う。「意識しているのは時間の余白。忙しい毎日から一歩抜け出して、人生を豊かにする手助けになればいいなと」。

地元の草木染め職人父子によるのれんや、亀岡で6代続く灯籠店の関守石など、京都ゆかりの品々も多々。この地のクラフツマンシップを次世代に継ぐ活動の応援という意味でも、有意義な買い物になるはず。

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