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福知山の鬼伝説、網野の世界に誇るピッツァ etc. 初体験は北に。世界水準がひしめく海側の京都へ一泊旅

京都の北端には、静かな日本海を背景に、漁業で栄える町がある。丹後半島を覗けば、伊根の舟屋という水上都市のような集落。さらには福知山の鬼伝説、網野の世界に誇るピッツァなど、初めてが続く北の京都旅。

photo: Kazufumi Shimoyashiki / text: Neo Iida

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京都の旅”と聞いて頭に浮かぶのは、先斗町の路地裏と、空の高い鴨川、八坂神社の朱色の社殿。

今にもJR東海のCMソングが聞こえてきそうな、「ザ」な風景である。しかし、車でぐーっと2時間ほど北上すれば、日本海に出る。定置網漁を営み、丹後コシヒカリが育つ土壌を持ち、源泉が湧く、自然豊かな生活圏が広がっているのだ。そう、海側の京都だ。

初めて見る京の海を目指し、沓掛から京都縦貫自動車道に乗る。この自動車専用道路が2015年に全線開通したことで、南北の距離はぐっと縮まった。丹波の山間を駆け抜け、ひとまず福知山に立ち寄る。城下町で念願の鴨すきを堪能。鴨肉の旨味を噛み締め、次いで大江山の麓へ。

この地は中世に京の都を脅かした鬼の頭領・酒呑童子のすみかと伝えられており、市が鬼専門の博物館を運営している。エントランスには巨大な鬼瓦。鬼の国際交流を図る世界鬼学会の事務局でもあり、館内ではインドネシアやメキシコなど、世界の鬼(精霊)の情報も網羅している。

与謝天橋立の出口を出ると、若狭湾が見えた。ついに海だ。その湾の縁に、びっしりと木造家屋が立ち並ぶ集落がある。ここが今日の宿泊地、伊根町だ。

漁師町として栄え、住居に直接船を乗り入れる「舟屋」という独特な建築様式が根づいている。せっかくなので海に出てみようと、釣りも楽しめる遊覧船に乗り込んだ。海から眺めた舟屋はまるで海の上に浮かんでいるようだ。思わず“日本のヴェネチア”と形容しそうになるが、コンパクトさはオランダの水上建築の方が近いかもしれない。

遠くに見えるは青島。伊根湾の中央で防波堤の役割を担う、神がすむ島だ。夏には豊漁と漁の安全を祈願する『おべっさん』という祭りがあるという。神様の気配を感じながら釣り糸を垂らす、贅沢な時間が過ぎていく。

船で〈向井酒造〉に乗り付けてもらい、土産に丹後産の古代米で造られた日本酒を買った。夜は海の幸を求め、寿司に。この日は脂ののった伊根ブリの握りを肴に、ビールを一杯。宿を目指し、窓の外を覗くと、漆黒の湾がしんと佇んでいた。

ローカルを突き詰めると、
やがて世界が見えてくる。

翌朝。テラスの先には伊根湾。そして熱々の温泉が張られた浴槽。たまらず朝風呂と決め込んだ。ざぶんと湯に浸かり、漁船の往来を眺める。伊根の暮らしはこうして始まるのだ。

朝食は近所に住む女性の手作り。定年を迎え宿の料理を請け負っているという。番重にのせ、海側の縁を歩いて運んできてくれた。干物は家で干したもの。伊根生まれ、伊根育ちの母の味が、なんとも沁みた。

さて、丹後半島の海岸線を走り、網野へ。地の魚を使うピッツェリア〈uRashiMa〉にやってきた。店主の藤原英雄さんはナポリピッツァ職人世界大会で2位を獲得した腕の持ち主。ハタハタのアヒージョをのせたピッツァは、魚の塩味とチーズのコクの相性が最高。ぺろりとたいらげてしまった。

「イタリアでは、その土地の食材を使った、その土地の料理を食べるのが基本。同じ料理を全国で作るなんて、そんなん無理ですよ(笑)。だからこそ、地元の味がどんなに贅沢なことか」。

自分なりに地産地消を追い求め、網野で何ができるか考えていく。海の町で生きる豊かさと厳しさ、そして地元への愛が、ピッツァに詰まっていた。

旅の終着点は、網野の南にある、画家・安野光雅の美術館。創業の地への思いから56種3万本の植樹をした〈和久傳〉と、その森と建物の共生を図った美術館を建てた安藤忠雄のセンス、晩年まで筆を執った安野の画業に圧倒された。

余韻に浸りながら、高速道路を南へ走らせる。海と対峙する暮らしが、舟屋となり、ピッツァとなって、世界に一つの海の京都を形作っていた。きっとまだ見ぬ景色がある。また探しに行こう、京都の北へ。

飲食店SPOT

MODEL PLAN

1日目

09:00 京都駅着。レンタカーを借りる。

10:00 京都縦貫自動車道に乗り、北へ。

11:30 福知山着。明智光秀の築城した福知山城を眺め、〈柳町〉で鴨すきランチ。

13:00 〈日本の鬼の交流博物館〉で鬼伝説に触れる。「平成の大鬼」と記念撮影。

14:30 伊根の舟屋着。〈舟屋の宿 鍵屋〉で釣り船に乗り、海釣りを楽しむ。

15:30 〈向井酒造〉で土産を買う。

18:00 〈鮨割烹 海宮〉で握りとビール。

21:00 湾を散歩しながら〈舟屋の宿・風雅〉へ。就寝。

2日目

08:00 宿の露天温泉風呂を堪能する。

09:00 宿の食事処で地元の朝ご飯をいただく。

10:00 車で丹後半島を回り、網野へ向かう。

13:00 〈uRashiMa〉で世界2位のピッツァランチ。

15:00 〈森の中の家 安野光雅館〉で水彩画を鑑賞。〈和久傳〉で土産の和菓子を購入。

16:00 京都縦貫自動車道で帰路へ。時間があれば〈富田屋〉で刺し身など。

京都府 地図

福知山までは京都駅から車で約1時間30分。JRなら特急で1時間15分ほど。福知山から伊根までは車で約1時間。

公共交通機関を使う場合は宮津駅まで特急で約30分、宮津駅からバスで伊根診療所停留所で下車。

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