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【Web限定特別編】髙比良くるまと楢原真樹が考える、笑いの渦に巻き込む漫才って?〜後編〜

2023・24年『M-1グランプリ』ファイナリスト同士、これまで数多くのツーマンライブを行いながら切磋琢磨してきた〈令和ロマン〉髙比良くるまと〈ヤーレンズ〉楢原真樹。2人が語る漫才で面白さを伝える技術とは?

最新号「伝える力。」未掲載のトークを加えた特別版の対談を、前後編でお届けします。前編はこちら

photo: Masanori Ikeda / text: Tsuyachan

楢原真樹

ちなみにくるまは、ネタ作りで意識していることはある?

髙比良くるま

漫才コントだったら、自分はまず皆が知ってる大ヒットドラマからネタを作ることが多いですね。なぜなら、すでに伝える努力が、最大限化されたものだから。『半沢直樹』とか。

楢原

『半沢直樹』、一秒も観たことない。自分はインプットしない人だから、エンタメの知識とか本当にゼロ。

くるま

そこが不思議なんですよ。楢原さんのトーク聞いてると、インプットしてそうな感じもするじゃないですか。この人、本当に何も知らないですからね(笑)。それでお笑いができてるってすごいです。

楢原

だから“あるある”(*5)が弱いんだよ。つくづく思うけど、お笑いにおいて、あるあるが一番大事じゃない?強い人から順に売れていく。

くるま

マスの人気を得るには、それが一番手っ取り早いですよね。

楢原

小学生が先生の物真似をして人気者になるのも同じ。身内のあるあるを演じるという。一回それでウケたら、もう強いんだよ。次は「確かにそうだけど言いすぎじゃない?」とかで、芋づる式にウケていく。僕はあるあるが出てこないから、とりあえず変なこといっぱい言ってウケてるだけ。

くるま

『ロンドンハーツ』とかでも、楢原さんはあるあるで攻められてる時に何もピンときてない顔してることがありますよね。「これって怒ったらいいの?何なの?」って(笑)。イジりって基本あるあるをベースにしたやりとりだから、それが楢原さんには通じない。イジられても「そうなんだ」って言って終わりますから。

楢原

うん、本当にわかんないんだよね(笑)。

くるま

芸人として特殊すぎますよね。お酒も飲まないし、恋愛にも疎いし。

楢原

流行ってるもの何も知らないしね。すべてに対して「へぇ、これが面白いんだ?」って感じだから、感情が乗らない。だから大変なんだよ。くるまとは真逆。

髙比良くるまと楢原真樹

くるま

俺は少し売れ始めた時から、単純に収入が増えてきて時間が使えるようになって。引っ越せるし、タクシーに乗ってその間スマホで映画も観られる。それまでご飯も一人で食べてたのが、家に人を招いて食事できるようになったし、旅行にも行けるようになった。

それでめちゃくちゃ色んなインプットが増えたんです。生活の幅が広がった。それで、「もう電車のあるあるって要らないな」と思った。満員電車ね、吊り革広告ね、トレインビジョンね、散々乗ったからもう知ってるじゃん、って。それで、タクシーに乗り始めました。時間が浮くから、色んなことができるんです。

楢原

あるあるを得るのに一番大事なのはお金ってことだな(笑)。

くるま

そう、あるあるってお金で買えるんですよ!

楢原

あるあるはお金で買える!

くるま

俺は大学生の時にバイトしまくって、学生にしては結構稼いでたんです。それで、「稼いでるのにお金使わないのって何なんだろう」と思うようになった。芸人って皆、あんまりバイトしないじゃないですか。「金ない金ない」って言ってるけど、働いてないからだと思います。

楢原

お金が欲しいなら働こうってことか。

くるま

悩んでる芸人こそ、バイトしてお金を稼いで使ったほうがいい。そのほうが肥やしになると思います。後輩にもお金貸すことが多いんですけど、貸すから、お金を使うことに慣れろ、衣装買えよって。説得力が必要なツッコミ役をしてるのに、白T着てたら駄目でしょって。ウケないから。それでウケて稼げるようになったらいいんですから。色々インプットして、あるあるを取り入れていかないと。

楢原

芸人に必要なのは、お金を稼ぐ→あるあるを得る→ウケる→お金を稼ぐ、というサイクルだね。あるあるが全然ない僕が言うからマジで間違いないけど、あるあるがあったら本当にお笑いは楽になるから。

くるま

そのサイクルの外にいるのに、2年連続決勝に行ってる〈ヤーレンズ〉さんは本当にすごいですよ。

楢原

本当にすごいんだよ!

くるま

楢原さんは、あるあるの話がなさすぎて、普段だとお笑いの話しかできない。ロケで一緒になっても、お笑いの話ばっかり。それしかないから。

楢原

だから、誰とも仲良くなれない。

くるま

そうそう。楢原さんは芸歴1年目の子より友達少ないですよね。あるあるがなくて物を知らなすぎるから、誰かと仲良くなりようがない。

楢原

『ONE PIECE』は全巻持ってるけどね。

くるま

一貫性のなさ!(笑)こんなに活躍してる人があるあるないなんて、誰も思ってないですからね。本当にすごい。楢原さんの場合、これもしゃべり続けるという継続がこのキャラクターを形作って、この見た目も加わって浸透したんでしょうね。“本音が見えないおしゃべりなおじさん”というキャラクターが完成したという。

楢原

たまに〈ヤーレンズ〉は正統派と言われるけど、逆かもしれないね。

くるま

本当にそうですよ。〈ヤーレンズ〉さんの漫才は、養成所でやったら一番怒られるやつですから。速くて、本題がないまま終わる。「タイトルがつけづらい」とか「内容が残らない」とか言われて絶対ダメ出しされますけど、それを突っぱねてやり続けたからこそ、異色の漫才が出来上がったという。吉本以外だと、そうやって長い期間続けて大成するケースもありそうですよね。

楢原

そうだね。吉本の場合は劇場もたくさんあるから、毎日やるとお客さんに飽きられちゃって、その型を続けられないという恐れもある。

くるま

そのぶんテクニックはつくんでしょうけど、新しいことを次々にやっていかないといけない環境ですよね。ほかの事務所だと、吉本よりも劇場数が少ないから、技術をつけるための場数は踏めないけど、同じことをやり続けられる。結果、〈ヤーレンズ〉さんみたいな天才が稀に残ったりするという(笑)。一方〈真空ジェシカ〉さんのネタは、一見ないように見えて実はあるあるが詰まってますよね。特殊な設定の中にあるあるがこれでもかとちりばめられていて、すごいと思います。

名詞を扱う難しさとツカミの極意

楢原

あとさ、この流れで言うと、名詞の使い方って難しいよね。世代が限定されることが多いというか。

くるま

難しい。「これ伝わらないかも」と思って入れたものが意外に伝わることもありますよね。高齢者が多めの寄席で、「やばい、いつもの流れで固有名詞言っちゃったけど、これ伝わる?」と思ったら、意外にウケる時があります。

楢原

やっぱり表現力があるからなんじゃない?それこそ、『タイムスリップ』(2024年『M-1グランプリ』決勝で〈令和ロマン〉が2本目に披露した漫才)でも、2.5次元(*6)って言ってたじゃん。あれは俺、全然わかんなかったけど、面白かった。同じように、わかんないって言ってた人多かったもん。でも、大きくウケてた。

くるま

2.5次元って実は俺もよく知らないんですよ。わかってないんだけど、なんかそれっぽいと思ってやったら、ウケた。(相方の松井)ケムリもよく知らないらしいです(笑)。たまにありますよね、ラッキーパンチは。

楢原

そうだったんだ!その点、俺らは『爆笑ヒットパレード』で“フラットアース”っていう、地球が平らだというくだりをやったら鬼が哭(な)くくらいスベったよ。

くるま

鬼が哭くくらい!聞いたことない言葉ですよ。

楢原

聞いたことないくらいスベったんだよ。芸人もスタッフも観覧客も、皆一人も笑ってなかった。しかもそれ、天丼(*7)でもう一回言わないといけないやつでさ。元日の昼間から漫才やって2回滑った。

くるま

そういう、絶対伝わってないことを笑いにもっていくのは〈ニューヨーク〉さんがうまいですよね。伝わってない俺らダサいわ、と失敗を逆手に取るのが上手。

楢原

それも、〈ニューヨーク〉の人柄が伝わってこそだよね。観客の人にキャラクターが受け入れられているかどうか、その見極めもうまい。

くるま

滑ったあとの顔の作り方とかもそうですよね。〈ニューヨーク〉さんも、結果的に吉本っぽくない仕上がりになっている気がします。そこがすごい。

楢原

あと、お笑いに限らず大事なのはツカミ(*8)だね。伝わるツカミというのがある。

自分がいつも後輩に言うのは、ツカミは最初のボケではなく自己紹介なんだよってこと。「この人こんなことしますよ」というキャラクターの紹介。それがウケたら一番いいんだけど、ウケなくてもいい。単なる自己紹介だから。

〈オズワルド〉は良い例で、「お世話になってます。伊藤と畠中でオズワルドです」って低いトーンで言う。この人たちはこういう人なんだ、と伝わる。逆に、何かボケて、その後印象づけたキャラと全然違う笑いをやるのは駄目。だったら、ツカミはない方がいい。

くるま

そうそう。自分たちの見た目や声と紐づいたことを言うのがいいですよね。最初に盛大にボケていいのは、「ボケること」で有名な人だけ。〈天竺鼠〉の川原(克己)さんは、ボケるので有名な人だからボケていい。そういうキャラとして浸透しているから。

楢原

〈天竺鼠〉さんは、最初に瀬下(豊)さんが「何してんねん!」って言うのがいいよね。あれで、「この人は“何してんねん”って言う人なんだ」「あの人は言われる人なんだ」というキャラクターが植えつけられる。

くるま

いやぁ、わかります。実は瀬下さんの自己紹介にもなっているという。ひと笑いが起きたとしても、それが自己紹介になってなかったら入れない方がいいですもんね。でも、今日は漫才についてここまで話して、伝えるうえで大事だと思っていることが、お互いおおむね同じで面白かったです。まだまだしゃべれる。

楢原

いろいろと発見もあって、勉強になったね。これからもよく話す、良きライバルでいてください!

髙比良くるまと楢原真樹が考える、観客の心を摑(つか)む最強の漫才4ヵ条

・位置関係はつじつまが合うよう丁寧に表現する。
・「ここが笑いどころです」をきちんと示す。
・色々な経験から入手した“あるあるネタ”を盛り込む。
・まずは笑いをとるより自分のキャラを説明する。

2人が伝える力を感じた漫才

選者:髙比良くるま

『小学校』霜降り明星
2018年の『M-1』を制した、小学校の思い出を辿るネタ。「考察ブームって楽しくて賢くなった気がするから流行ってると思うけど、それにも通ずるクイズ的気持ち良さがありますね」

『必殺仕事人』テンダラー
『THE MANZAI 2011』決勝などで披露されてきた、悪人を成敗するネタ。「漫才の教科書に出てくる芸。普通ここからどう崩していくかを考えるが、そのままをやって面白いのが不思議」

選者:楢原真樹

『コール』トム・ブラウン
2024年『M-1』決勝で話題を呼んだ、ホストクラブを舞台にした芸。「実は細部のこだわりがすごい。扇風機をはがす時の音は“ベリベリ”ではなく“バキバキ”まで考え抜かれてます」

『風猫』ランジャタイ
強風の日に猫が飛んでくるという設定の、2021年『M-1』決勝ネタ。「伝えたいという熱量だけで笑ってしまう。止まる&叫ぶという動きがうまいし、一生懸命さが愛らしい!」

選者:髙比良くるま&楢原真樹

『オレオレ詐欺』和牛
水田信二扮する息子が、川西賢志郎演じる母親に対してオレオレ詐欺で騙されないか試すネタ。2018年の『M-1』決勝で披露された。「最後に二人が睨み合っただけで拍手笑いが起きるのはすごい」(楢原)。
「伝える技術が巧みすぎる。漫才コントの最高到達点!」(くるま)

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