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ホンダ「XR250」が仕事とオフロードを自由に繋ぐ。〈JOCKRIC〉代表・黒川勝志のバイクライフ

山道にバイクの音が響く。二輪で颯爽とオフロードを駆けるモトクロス。趣味というよりもハードな競技の世界に思えるが、ライフスタイルとカジュアルに行き来しながらモトクロスを取り入れる、そんなバイクライフの話。

photo: Wakana Ono

「初めてバイクを買ったのは、小学6年生ぐらいだったと思います」と話すのは、徳島県を拠点にアパレルブランド〈JOCKRIC〉を手がける黒川勝志さん。小学生でバイクに乗る。法律を破るアウトローな話から始まったかと思いきや、これは競技用のモトクロスバイクの話。

「8歳上の兄がバイクを持っていて、よく後ろに乗せてもらって身近な環境にありました。そして、強烈に惹かれるきっかけになったのが『風を抜け!』というモトクロスの漫画です。当時夢中になって読んでいて、どうしても欲しくなって親に相談して貯めたお年玉で子供用の競技用のモトクロスバイクを買ったんです」

競技用のモトクロスバイクは、ウインカーなど公道で走れる装備もナンバープレートもなく、専用コースで“走って止まる”、その機能を追求したシンプルな造り。探し回ってバイクショップで見つけた中古のカワサキ「KX80」は、破格の2万5000円程度だったという。そこから青春をバイクに捧げることに。

「ちょうどその当時、野球場などにコースを造る『スーパークロス』がアメリカから来て、関西では西宮球場でやっていたんです。僕も兄と一緒に観に行って、雑誌で見ていたアメリカのライダーたちが目の前で颯爽と走っていたのを見たんです。バイクもスーツも色味が派手で子供ながらにすごく憧れましたね」

徳島には〈美馬(みま)モーターランド〉という全国的にも有名なモトクロスのコースがあり、夏休みなどは、そこに寝泊まりしながらひたすら練習に没頭。10代は全国の公式レースに参加したが、ケガも多い競技。

「何ヵ所骨折したかわからないです」と笑いながら話すが、20歳の時、大きなケガもありレースからは手を引くことに。その後、船舶関係の仕事をしながらも、趣味としてモトクロス、さらには知人から勧められた自転車のダウンヒルにも熱中。その後40代を前に両親が営んでいた縫製業をベースに〈JOCKRIC〉を立ち上げる。

「今手がけている〈JOCKRIC〉というブランドは、“しごと着”というコンセプトで作っていますが、始めたきっかけは、自転車のメカニックの人に作業用のエプロンが欲しいと頼まれて作ったことです」

ほかにもモトクロスで使うゴーグルのゴムバンドを再利用したコーヒーサーバーなど、その仕事にもバイクや自転車はシームレスに還元されている。現在は、自然に囲まれた徳島の上勝町にアトリエを構え、自宅もそこから1時間ほどの場所にあるが、どちらからもすぐに河原や林道など練習できるオフロードに行くことができる。仕事とモトクロス、この2つを自由に行き来できるような環境がここにはある。

「公式のレースにはもう出ていないんですが、小学生から乗ってきて、人生の一部みたいな感じなので、やっぱり二輪に乗らないと気持ち悪い感じがするんです。一時期バイクを手放したこともあったんですけど、気づいたらまた買っちゃって。やっぱり体一つで風を感じたり、オフロードで地面から伝わる振動を全身で受け止めたり、バイクでしか得られないものがあるからやめられないんでしょうね(笑)」

ホンダ「XR250」
徳島県上勝町のアトリエから30分の距離に黒川さんがよく練習で行っている〈スーパー林道〉がある。