「観てない映画はいろいろあるので、今回何を挙げようか悩んだんですけど、一つ挙げるとしたら『ブルーバレンタイン』です。実は、恋愛映画をあまり観てこなくて、どちらかというと避けてきたんです。
それでもこれはいいから、失恋経験のある人ならすごくわかるからって、周りの人たちに薦められて。レンタル店で借りて帰ったことは何度かあるんです。それなのにいつも観る前に返却期限が来てしまって、結局まだ観ていません。何度か再生したことはあるんですけど、序盤でうとうとしてしまって(笑)。なぜか縁のない作品なんですよね」
『ブルーバレンタイン』はライアン・ゴズリング、ミシェル・ウィリアムズらが出演する2010年のラブストーリー。好きな俳優が出ている作品なので、興味はあるものの、いざ観ようと思っても腰が重い。それくらい恋愛映画に対してアレルギーがある、と黒木さんは言う。
「恋愛映画ってキラキラしたイメージがありますよね。そのキラキラに耐えられないというか(笑)。例えば学校だと2つのタイプに分かれると思うんです。クラスの中心でキラキラと青春時代を過ごしている人たちと、中心ではないところで自分たちなりの青春を過ごしている人たちと。私は後者の方だったんですね。
高校時代は演劇部で、ほとんど演劇しかしていなかったし、文化祭でも裏方の照明係として、バンドの子たちに光を当てていました。だからキラキラした恋愛映画で譬えると、脇役として描かれるようなタイプだったんです。それで、光が当たっている人たちの恋愛に対して、あまり興味が持てなかったんだと思います」
そこにリアリティのようなものを感じることができなかった。だから惹かれることがさほどなかった。それが黒木さんの恋愛映画を敬遠してきた理由みたいだ。でも恋愛映画をまったく観たことがないかというと、そういうわけでもない。観て、好きになった作品もある。
「唯一、恋愛映画で好きと言えるものが『エターナル・サンシャイン』です。ミシェル・ゴンドリー監督が好きだったので、恋愛映画だとあまり知らずに観てみたら、まず視覚的に面白くて。映像はファンタジー調なのに、物語には現実味があって、恋愛の描き方にもリアリティがありました。けっこう好きなんですよね。
ほかにも印象に残っている恋愛映画があるんですけど、何だっけな……何日前、何日後って行き来しながら、男の人が女の人に振り回されるような映画で……『(500)日のサマー』!あれは面白かったです。『プリティ・ウーマン』も観たことがあります。でも、有名な作品では『ローマの休日』『ノッティングヒルの恋人』とか……日本の恋愛映画もあまり観てる方ではないですね」
好きだなと思うのは観てモヤッとする映画
でも映画は幅広く観てきた方だという自負はある。黒木さんによれば、実際、好むジャンルは多岐にわたっている。
「その時々によって変わりますけど、サスペンスやミステリーは基本的に好きですね。あとファンタジーも、韓国映画も観ますし、監督ならキム・ギドクやラース・フォン・トリアー。好きな役者さんを追いかけて観ることもあります。渋くて大好きなのはゲイリー・オールドマン。最近なら『スリー・ビルボード』のサム・ロックウェル、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズが気になります。
ホラーにはまっていた時期もあって、その頃はホラー映画ばかり観ていました。ずっと苦手なジャンルで、ジャパニーズホラーも観てこなかったのに、『SAW』をきっかけに面白くなって。ほかにもゾンビ映画がすごく好きだったり、B級映画も、鮫やピラニアが襲いかかってくる映画も好きだったりするんですけど、恋愛系だけは観てこなかったんです(笑)」
高校は演劇部、大学は映画学科と、映画好きが多い環境で育ってきたこともあって、多様な映画に、ややディープすぎるくらいに親しんできた。ひょっとしたらそのせいかもしれない、映画に何か“引っ掛かり”を求めてしまうのは。
「観終わって、ああ面白かった、ああ感動した、だけでは満足できないところがあるんです。自分が好きだなと思うのは、わりと重かったり、こじれていたりする作品が多くて、観終わってモヤッとするようなものが好きなんですね。人間関係のもつれやごたごたが描かれているようなものに惹かれます。だからきれいな女の人がカッコいい男の人に告白されるような場面を観ても、あまり引っ掛からないのかもしれません。でも克服していきたいです。
好きなものは多い方が、世界が広がると思うので。いろいろな恋愛ものを観て、やっぱり違うと思ったらそれまでかもしれませんけど(笑)、観ないまま違うと思うのは失礼なので、まず挑戦したいと思います。何から始めればいいんでしょうね?」
黒木さんの好みを聞く限り、恋愛映画といっても恋愛関係のもつれやごたごたを描いた、観終わった後にズシンとした重みを残すものの方がお薦めのような気がする。となるとやはり、ある恋の始まりから終わりまでを悲痛に映し出す、あのラブストーリーがぴったりなのでは?
「『ブルーバレンタイン』ですか?みんな、私にはそう言うんですね(笑)。はい、今度こそ本当に観てみようと思います」