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トランペット奏者・黒田卓也が語る。音楽家のクリエイティブを感じるアドリブの魅力

ジャズを一曲聴いてみる。耳馴染みの良いメロディの後に、トランペットがソロをとり、なにやら自由に演奏を始める。ごく簡単に説明すればジャズのアドリブとは、この部分のことである。自由に音を紡いでいるように聞こえるが、実は全くそんなことはない。ニューヨークを拠点に現代ジャズにおいて強い存在感を放つトランペット奏者の黒田卓也さん。彼がアドリブの真髄に気づいたエピソードを教えてくれた。

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text: BRUTUS

アドリブとスポーツ。2つは驚くほど似ている

「20歳で、バークリー音楽院のサマーキャンプに参加した時。現地にいた日本人の先輩に、“くろちゃんのソロは、雰囲気はすごいあるけど、中身なんもないな”って言われたんですよ。それまでは適当にやっていた部分があった。やっぱりプロから見ると、わかっちゃうんですよね。ジャズのかっこいいところでもあり、難しいところが、複雑な和音を出した時、アドリブのチョイスが無限大に広がる部分がある。その時に何をやるかで、その人の知識とか実力とかが垣間見えるんですよ。

バスケットボールもやっているんでわかるんですけど。反復練習をするからこそ、緊張感ある試合の中で、考えもせずに動けるようになるわけです。アドリブも全く一緒で、ステージに上がって、初めて会う人とセッションした時、コンマ何秒の世界で悠長に考えている暇はないんですよ。だから、ジャズミュージシャンはみんな本当に練習しまくっています。基礎的なフレーズ、つまりジャズにおける基本的な共通言語は練習しないと出ないものがほとんどなんですよね」

ゆえに、ミュージシャンの特徴が一番感じられる部分でもある。

「いろんな個性が出てくるんですよ。僕だったらクリフォード・ブラウンになりたいと思って、10代をすべて捧げていた(笑)。たまにニューヨークでライブしていると、自分の吹いたフレーズに“That's Clifford Brown!”とか言われることも。彼はメロディ性の強いソロをとるのが本当にうまい。アドリブソロながら、歌心溢れたフレーズがとめどなく紡ぎ出されるところがとても好きで。トランペッターなら一度はコピーしてるんじゃないかな」

トランペット奏者のクリフォード・ブラウン
クリフォード・ブラウン/ハードバップ初期のプレーヤー。25歳で急逝するが、チャーリー・パーカーはじめ多くのミュージシャンが評価する。「『Sandu』という曲のソロが一番わかりやすいです。ソロなのに一つの曲に聞こえるくらいメロディアスです」 ©getty images

一方で、渡米してから魅力に気づいたのがロイ・ハーグローヴである。

「ロイはシンプルに吹いているんだけどその威力が絶大。日本でCDを聴いていた時は、そんなにファンじゃなかったんですよ。でも初めてライブを観た時にぶっ飛ばされた。音のダイナミックさが半端じゃない。温かい小さな音を吹けば会場中が彼の音に耳を澄まし、その次の瞬間、魂ごとぶつけてきてるのではないかというくらい迫力のある音で観客を魅了する、その惹きつけ方がすごいんです。

やっぱり、しっかり聴きたいならライブだとその時改めて思いましたよ。アドリブのすごくいいところは、観客と一緒に演奏している人たちの行動によって、変わるところ。耳をダンボのように大きくしてソロをしている。その場所自体と常に会話をしている感覚はありますね」

トランペット奏者のロイ・ハーグロー
ロイ・ハーグローヴ/ヒップホップとジャズのミックスをいち早く行い、現代ジャズシーンに強く影響を与えたプレーヤーの一人。「とにかくライブが素晴らしい。難しいことをしているけど、シンプルに聴かせてくれる。抑揚の深みがすごいです」 ©getty images