対話を通じて楽しむ、世界トップレベルの豆
2018年の「ワールドブリュワーズカップ」で世界チャンピオンとなったバリスタの深堀絵美さん。彼女がオーナーとして共同経営しているのが、スイスのコーヒーショップ〈MAME(マメ)〉だ。2016年にチューリッヒ中央駅からもほど近い5区にオープンした1号店と、そこをベースに世界を飛び回って活躍する絵美さんの様子は、本誌1015号の特集「おいしいコーヒーのガイドブック。」でも大きくフォーカスしてご紹介した通り。
そんな〈マメ〉が、いよいよ2025年夏、初となる日本の店舗を、東京・神谷町にオープンさせた。その名も〈クロマメ〉。スイスの店舗とは違い、この店のインテリアは温かみがあるナチュラルな壁の仕上げで、よりゆっくりと落ち着いてコーヒーを楽しめる空間になっている。内装を手掛けたのは〈COFFEE COUNTY TOKYO〉なども手掛けたMHAA建築設計事務所だ。
この店に、メニューはない。店内に入ってカウンター席に腰を下ろすと「どんなコーヒーが好きですか?今日はどんな気分ですか?」と好みを細かくヒアリングしてくれるところからサービスが始まる。
提供されるのは、コンペティション・ロットと呼ばれる世界大会で使用されるようなトップレベルの豆や、エクスクルーシブ・ロットと呼ばれる、正真正銘〈マメ〉〈クロマメ〉以外、他のどの店でも飲むことができない希少な豆ばかり。

「世界大会で使用されるような豆を、業界の人だけに留めておくのはもったいない。もっと一般のお客さんにも飲んでほしいんです。だって、本当においしいから」と、惜しげもなく提供している。
メニューを用意していないのも、産地や農園といった知識の前に、ただただ「おいしい!」という、この瞬間の感動を大切にしてほしいという思いから。
「お客さんがコーヒーを飲んで、驚きで目を大きく開ける瞬間を見るのが好きなんです。してやったり!って(笑)。誰と飲んだ、どこで飲んだ──その日は、こんな天気だったとか、このお気に入りの服着てたとか。そういう記憶の方が大事。コーヒーのウンチクよりも、『山椒のような味がするコーヒーです』と言われて、実際に飲んでみたら本当に山椒の味がした!とか、そういう感動を味わってほしいんです。そうすると、もう忘れられないから」
世界チャンピオンという実力に裏打ちされた、コーヒーへの深い知識と愛。しかし、難しいことは抜きで、あくまでもコーヒーの楽しさを知ってもらうために、と考え抜かれた空間には、唯一無二の体験が待っているだろう。
