韓国茶と人との出会いを演出する
——P&Pのお名前を拝見した時に、お茶のブランドなのに「tea」という言葉が入っていないことに驚きました。
P&P
単にお茶を扱うという気分だけで名前をつけたわけではありません。ブランドを立ち上げる時に、自分はお茶を通して何をやりたいかと考えていました。その時書店で偶然デイヴィッド・ホックニーの画集『Portraits and People』を見て、「お茶を通して自分自身と向き合い、人と交流すること」なんだと気づきました。例えば、絵の具や筆を使ってまったく新しい世界を描き出すように、お茶を通じて世界観を示したい。
この名前がぴったりだと思ったんです。ちなみに、最後まで候補に残っていたもう一つの名前は「ハイゼンベルクの不確定性原理(Heisenberg's uncertainty principle)」です。少し難しい名前かもしれませんが、思考の隙間を開いてくれるような、そんな感覚を伝えたいと思いました。
——ブランド立ち上げの経緯をお聞かせください。
P&P
もともと会社に長く勤めていましたが、いつかは一生の仕事を見つけたいと思っていました。そして「その時が来た」と感じたタイミングで退職し、少し長めの休業期間をとりました。
休業中は、自分の好きなことだけ──本を読む、文章を書く、映像を作る、料理をする、お茶を飲む、瞑想をする、を毎日、修業のように繰り返していました。そうした日々を過ごしていて、ふと、自分の好きなことをそのまま仕事にできないだろうか、と思うようになりました。それが今の活動につながり、2023年の6月にローンチしました。
——お茶に目覚めたきっかけは?
P&P
以前ロンドンに滞在していた際、ヨーロッパ式の紅茶の世界に惹かれ、そこから中国や台湾、東アジアのお茶にも関心が広がりました。英国式のアフタヌーンティーや中国茶、日本の茶道にも文化的な様式美があります。
一方、韓国ではケツメイシ茶や麦茶、トウモロコシ茶などを大量に淹(い)れて、まるで水のように飲むんですよね。「お茶=日常の水」として捉えることにとても魅力を感じました。また、韓国のお茶はゴミシやキクイモ、ヨモギなど、自然素材を使ったお茶を楽しむ。自然に寄り添う姿勢が面白いと感じました。
——本とお茶をペアリングしているのが面白いと思いました。どのようなタイミングで企画されるのですか?
P&P
特にシーズンやターゲットを決めているわけではなく、時間の流れや季節の移り変わりの中で、自分の中にふと湧き上がってくるインスピレーションや感覚に従って選んでいます。例えば、今年の韓国の冬はすごく厳しくて長かったんです。だからこそ、春が来た時に、その風景がとても叙情的で、牧歌的に感じられました。
また、「春(봄)」という言葉は、韓国語では「見る(보다)」という動詞から来ている説があって。そうした要素が自然に集まって、「牧歌的な春を見る」というテーマで、宮沢賢治や詩人・朴景利(パク・キョンニ)を念頭に3冊の本とお茶を選びました。
——現在P&Pのお茶を体験できる場所としては、オンラインとポップアップのイベントになりますか?
P&P
そうです。最近は4月に「仮説の劇場」というテーマでポップアップを行い、「無言劇」というテーマで本とお茶をキュレーションしました。お客様にお茶を振る舞う際は、相手の性格や好み、その方の置かれている状況などに応じて、お茶の種類や濃さを変えたり、淹れる順番を工夫したり、その方に似合う茶器を選んだりしています。そうした小さな配慮を重ねてお茶を淹れる時間は、私にとってもとても楽しくて幸せな時間になるのです。
今の韓国を定点観測するための音楽、陶器、文学
Music

「借りた口」の意。「インディーズのパンクバンド〈ムキムキマンマンス〉で活動していたミュージシャン。『借りた口』『腫れた足』『割れた鏡』といった曲名のように、詩的なセンスが魅力的で、移動中に考えを整理したい時によく聴きます」
Pottery

陶芸家夫妻による工房。「韓国と日本の絶妙な融合が感じられ、個人的にもよく使っています」。8月22日〜31日、〈RICORDO〉(大阪府大阪市生野区生野西1-12-11|地図)にて『張勲成工房展』を開催。
Instagram:@jang_hun_seong_pottery
Novelist

韓国を代表する小説家。代表作に1969年から25年間にわたって書き継がれた大河小説『土地』(全20巻)がある。「素朴な人生を歩まれた方ですが、その文章には心が解き放たれるような感覚があります。私にとって、人生の指針となる存在です」