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「韓国文化通信」Vol.16 映画監督・E.oni

今、最も“要注意”すべき韓国カルチャーを牽引するキーパーソンにインタビューし、その変化を定点観測していく本連載。第16回は映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』が日本で公開となる監督のイ・オニさん。

text&edit: Keiko Kamijo

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ありのままのお互いを認め合う2人を描く

——この映画は原作小説『大都会の愛し方』(パク・サンヨン著、オ・ヨンア訳/亜紀書房)に収録されている短編「ジェヒ」が基になっています。映画化されるにあたり、どのような点を変えていかれましたか?

小説ではフンスがジェヒを見る一方向視点からの叙述となっているのですが、この映画では2人の双方向の関係を描く、青春映画にしたかった。また、人というのは、他人との関係性の中で自分自身のことを知っていくのだと思う。ジェヒとフンスの2人が関わり合いながら、お互いに自分自身のことを知っていく、そうした過程を丁寧に膨らませていきました。

——2人の関係を見て、性別を超えた大きな意味での“愛”と“承認”について考えさせられました。また、フンスがゲイという設定もそうですが、ジェンダーの問題や無意識な差別にまつわる表現も登場します。撮影や演出で気をつけた点を教えてください。

この映画は商業映画だということが、大前提としてあります。私の作品作りの傾向でもあると思いますが、私は観客に対して何かの強いメッセージを押しつけるべきではないと思っています。

もちろんストーリーの中では、社会にある様々な問題を扱っていますが、あくまで自然な形で観客に投げかけるものがあったらいい。最初は観客の皆さんはジェヒのこともフンスのことも知りません。でも映画館を出る頃には、2人が仲のいい友達であるかのように感じてほしいなと思います。

——撮影に入る前にチームでニュアンスを共有するために観賞した作品などはありましたか?

特に私の方からこの映画を観てと参照作品を提示したものはありません。ただ、先ほども言いましたが、この映画は商業映画なので、面白い!楽しい!ということが大切だと思い、撮影監督らには2000年代のハリウッドのラブコメ映画、例えば『プラダを着た悪魔』などの作品を観てもらい、雰囲気の参考にしました。

——ジェヒ役のキム・ゴウンさん、フンス役のノ・サンヒョンさん。2人の演技について一言お願いします。

映画監督が俳優を演出してどうにかできる領域というのは非常に限られると思っています。なので、監督としてできることは、いい俳優を起用することだけ。2人に参加いただけたのは、幸運でした。キム・ゴウンさんは本当に才能豊かで勘もよく、賢い俳優なので、あれこれ対話する必要はありませんでした。

一方ノ・サンヒョンさんの演技を私はあまり知らなかったので、彼とは事前に映画の話や個人的な話など、すごくたくさんの話をしました。そうして2人がジェヒの部屋のセットに入った瞬間、とてもいい空気感が生まれて、2人を起用してよかった、この映画をずっと撮っていたいと思いました。

——ジェヒの結婚シーンについて。原作にもありますが、現代韓国では結婚がそれほど重要視されていないように思います。結婚のシーンを描く際にどのような点に注意されましたか?

最初から結婚式というものをこの映画において表現すべきかどうかはすごく悩みました。最後の方でフンスが「気をつけて行けよ。ジェヒや」という台詞(せりふ)を言いますが、そこには帰る場所があるという意味も含まれているように思います。また、結婚式のシーンでは、それまで自分自身を隠して生きてきたフンスがたくさんの人の前で堂々と歌とダンスを披露します。

——結婚式で「Bad Girl, Good Girl」をフンスが歌うシーン、素晴らしかったです。この曲を選んだ理由は?

原作は違うガールズグループの曲だったのですが、少し時代設定が違うのでほかの曲を探さねばなりませんでした。また、原作では歌だけだったのですが、ぜひダンスもしてほしいと思いました。探していた時に、プロデューサーの一人がこの曲を提案してくれて。聴いた時に本当にピッタリだと思いました。

——監督が今関心のあるカルチャーについて教えていただけますか?

「政治」にすごく関心があります。もともとはあまり関心がなかったんですが、最近韓国の政治があまりに揺れているので(笑)。政治家たちを見ていると、ある意味すごく人間味があるというか、人間の根源にある欲望に気づく。今後の作品に登場するキャラクター作りに役立つなと思いながら見ています。2つ目は、今までは新しいものを探すのが好きだったのですが、最近は20代の頃に好きだった映画や音楽に敢えて触れて、今の自分ならどう感じるかを試しています。

映画監督・E.oni
写真提供:Plus M Entertainment

今の韓国を定点観測するための映画

『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』
監督:イ・オニ/出演:キム・ゴウン、ノ・サンヒョンほか/配給:日活・KDDI/自由奔放なジェヒ(キム・ゴウン)はその個性の強さから大学でも孤立しがち、繊細で寡黙なフンス(ノ・サンヒョン)はゲイであることを打ち明けられず孤独に生きる。周囲に馴染めない2人がひょんなことで出会い一緒に暮らし始める。6月13日、全国公開。

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