収集歴は3歳から。この世に存在するあらゆる物を貪欲に収集した柳本浩市は、自らをアーキヴィストと呼んでいた。そんな柳本が遺した収集品が公開されたのは2017年。今年4月4日に発売された『柳本浩市 ARCHIVIST』は、その伝説的展覧会の記録集だ。
「柳本さんの言うアーキヴィストとは、物を収集し、分類して関連づけ、文脈の中に見えてくる価値をアーカイブから発展させる人のこと。そうやって収集していた当時の状態を”生のまま”見せたいと思いました」と話すのは、展覧会のキュレーションと本の編集に携わった熊谷彰博だ。例えば本書では、エアライン〈ブラニフ〉や歴代オリンピックの印刷物、チープな食品パッケージなどを収めたファイルの写真が、196ページにわたり淡々と並べられている。物の説明文は、ほぼない。
「文脈の紡ぎ方は何通りもあり、それによって物の輝き方が変わるとも語っていた。だから、こちらから情報や見方を提示することは控えたんです。代わりに、親しかった人の寄稿や柳本さん自身の講義録などいろんな糸口を用意しました。読む人がそれらを自由にひもづけることで、膨大な仕事の輪郭を想像してもらえたら、と」
展覧会から5年経ち、ようやく完成した本を見て、改めて気づくことも。
「柳本さんは物に組み込まれた情報を知りたくて集めていた。そこには過去から続く文脈、民族や国のナラティブもあって。現代の社会情勢や資源不足の中では、新しい価値観が必要になる。物の背景にある情報や歴史を学び、未来へと文脈を再構築することが役に立つと思うんです。物を通して人類を探求していた。そんな面も伝えたいです」