全力で追い求めた日々は、人生の宝物になる
「“推し”をテーマにしたギャグ漫画を描きたくて、女の子2人の会話劇をベースにプロットを書き始めました。それまではストーリー性のあるものを描いたことがなかったので、オムニバス形式のギャグ漫画の面白さを維持しつつ、ただ笑えるだけではない人間関係も表現したくて、ストーリーの縦軸をつけることが自分の課題でした」
テーマに据える一方で、物語の中で主人公2人は“推し”という言葉を使っていない。そこに込めた思いとは?
「この漫画で表現したいことは何かを考えたときに、ライトな“推し”という考え方にとどまらない感情を描いていこうと決めたんです。個人的に、“推し”というワードには愛や熱意がある一方で無責任さも伴うなと思っていて。キャラクターたちが秘めている、好きな人のために何かをしたいっていう信念が物語の核になってくるので、ちゃんと“好きな人”っていう言葉を使っています。他者を消費するだけではない、藍美と波のどデカ感情を描いていたので。一方で、『霧尾ファンクラブ』という言葉には、霧尾に対する距離感もある。それを感じ取ってもらえると、より作品の深みが伝わるかなあと思ったりしますね」
作品には自身の高校時代の思い出や、推し活での実体験を反映しているそう。
「自分の中にある真実しか描けないタイプなので、基本的に藍美の発想は私が普段考えていることなんですよね。作品を通して、その時自分が抱いていた感情を記録に残す意図もありました」

物語の中で常に話題の中心である霧尾だが、その顔は描写されず、あくまでも藍美と波の物語であり、2人の高校生活がテーマでもある。
「当初から、卒業式以降の話は絶対に描かないというルールを設けていました。3年間の青春っていうのを、彼女たちに大事にしてほしいという気持ちがあったので、限られた時間だからこそ輝くということを意識して描いていました。青春は、必ず終わりが来る限定的な時間だと思います。この作品を通して、きっと誰しもが持っている、自分の記憶の片隅にあった何かを思い出してもらえると嬉しいですね」