『王様戦隊キングオージャー』は、今年の最重要作だ!
阿部和重
国内ドラマ全部を観ているわけじゃないですが、2023年は『キングオージャー』の年だと断言したくなる。こんな尋常でない作り込みは近年でも稀ではないかと敬服しております。
大森敬仁
励みになります。
阿部
毎週息子と興奮して観ております。子供の頃に好きだったスーパー戦隊に私自身がまたハマったキッカケは2001年、徹夜明けに偶然観た『未来戦隊タイムレンジャー』(*1)の最終回です。ただならぬ雰囲気にかつての感触とは違うなと引き込まれ、そのまま『仮面ライダー』も毎年視聴することに。それから10年後には拙著『幼少の帝国』(*2)で東映とバンダイの方々に取材もしました。
大森
私がCPを務めた『仮面ライダーゼロワン』(*3)の最終回後も、阿部さんがSNSで「結果的にゼロワンは最高の仮面ライダーになった」と投稿されていて、報われたのを覚えています。
阿部
コロナ禍という最悪条件下でも見事な締めくくりを見せた『ゼロワン』には感動しました。そして『キングオージャー』はスーパー戦隊が長年追求してきた“変形合体”の理想を最高度に具現化した、到達点だとさえ思うのですが、この大傑作は、どうしてここまで作り込めたのですか。
大森
今回は企画が早めに発進して、作り込むための時間が取れたんです。通常は1年前から徐々に始動するのですが、今回は1年半前に私がCPに就任して時間に余裕があった。しかも「王様戦隊」というアイデアをずっと持っていたので、翌日には企画書も出せて。
阿部
なるほど。「王様」というモチーフを選択した理由は?
大森
単純ですが、王様たちが集まったらワクワクすると思ったんです。自国を背負う重圧と孤独に向き合う王様たちが困難を乗り越えて結集したら、とてもワクワクするだろうなと。仮面ライダーのかっこよさが「孤独」にあるとすれば、スーパー戦隊は結束にありますから。
阿部
スーパー戦隊と仮面ライダーの、いいとこ取りだ。
大森
あと、これは打算的な話ですが、王様という記号はとても便利なんですよ。子供が見ても、王様は国で一番偉い人だとわかるじゃないですか。
阿部
たしかに。権謀術数も描きやすいですよね。その意味で『キングオージャー』はスーパー戦隊初のポリティカルスリラーかもしれない。戦隊の一員であるカグラギ・ディボウスキ(佳久創)が、二枚舌で敵と味方の間を暗躍するのも面白い。何か意識した作品はありましたか?
大森
これ、というのはないです。『ゲーム・オブ・スローンズ』(*4)っぽいとよく言われますが、今作がスタートしてからチェックしたので、私に限ってはさほど参照していませんね。
作り手の熱量と物語のシンクロがもたらす感動
阿部
全編バーチャルプロダクション(VP)の本作、5ヵ国の風景映像も特徴的です。コロナ禍の行動制限にも対応可能な仮構表現ですが、それ以上に物語上の必然に沿って周到に組み立てられていることがわかります。
大森
5ヵ国分のCGを作るのは我々にとって前代未聞のことで、大変でした。VP部からも「背景のCGアセットは時間がかかるから、早めに発注してくれ」と頼まれて。LEDウォールに背景映像を映して撮影するので、クランクイン時にはすべて完成していないといけないんですよ。
阿部
マーベルでもCG制作の現場がブラックだと相当問題になってましたね。
大森
我々のせいで、現場のクリエイターにシワ寄せがあってはならない。脚本家と監督と共に構想を練り上げて、VP部にバトンを渡すまでが、いつにも増して孤独で大変でした。
阿部
作り込まれたCGの連続の中に、不意に草原の実景ロングショットを挿入し解放感を放ってきたりする演出も素晴らしい。あれにはグッときました。仕掛けの引き出しが多く入念ですね。
大森
28話の冒頭ですね。あの映像は事前に撮影した牛の放牧された草原のロングショットや、ドローンで空撮した棚田です。本作の実景ショットはクランクイン前に全国各地で撮りためたもの。もし本作で使えなくても東映の財産になるからと、思い切って撮りまくりました。
阿部
時間をかけた準備がそこでも生きているんですね。作り込みは物語だけでなく、作品の隅々まで行き渡っている。前作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(*5)もすごい傑作でしたが、類例がないような変化球でしたね。新人漫画家の女子高生が語り手で、主人公の桃井タロウ=ドンモモタロウも破天荒。隊員の絡んだ三角関係もあって話の予測がつかない。こうも型破りだと次作は大変だと思ってたんですが、完全な杞憂でしたね。
大森
むしろ『ドンブラ』がスーパー戦隊のルールをことごとく破ってくれたおかげで、自分たちもやれると勇気が湧きました。
阿部
美しい連携だ。作り込みといえば今作は全キャラクターに存在感がある。
大森
脚本担当である高野水登さんのキャラクター造形とセリフ回しのおかげですね。正直、最初のプロットは面白くなかった(苦笑)。でもセリフを書いてもらったらすごくよくて。「あなたはセリフの人だよ」と伝え、そこに集中してもらうことにしました。ト書きなんかは私が交通整理すればいいので。
阿部
プロデューサーの鑑ですね。
大森
いやいや(苦笑)。彼は僕より一回り以上下でまだ30歳。だから違う価値観でフレッシュな風を入れてくれてます。
阿部
役者の皆さんのストーリーとキャラクターへの理解も深いなと感じます。
大森
役者に力があるのは大前提ですが、ここでも準備期間の長さが功を奏しました。通常はオーディション時に台本はないんですが、今回は台本がすでにあったので、候補者に実際のセリフを読んでもらえた。そのおかげでイメージ通りのキャスティングができたんです。
阿部
王の側近や国民など周辺人物らも重い役割を果たすのは特筆すべき点です。脇役がこれほど目立つスーパー戦隊も珍しい気がしますが狙いでしょうか。
大森
それは意図してなくて、王様というモチーフの副産物です。通常の戦隊は基地に集まりますが、今回は王だから基本的に自国の領土にいないとおかしい。そうすると王のキャラを深めるには側近としゃべらせるしかない。自ずと従者にも焦点が当たりました。
阿部
『キングオージャー』は、合体=結束の理想を最高度に具現化したスーパー戦隊の到達点だと思う理由がここにあります。王と民が団結しロボを操縦する25話がまさにそういう内容。そもそもキングが6人もいて王の特権性を否定的に描く本作はそこで、側近や民らも戦隊に加え同等の立場で戦わせる。これはつまり王様戦隊の民主化で、協調主義を是とするスーパー戦隊の理想像に映る。
大森
総勢20人がコックピットに座ったのはスーパー戦隊シリーズで最多でした。クランクイン前に特撮監督の佛田(洋)さんがロボ1体につき1人乗せたいと言っていて、最初は無茶だと思ったんですが、結果的に実現しましたね(笑)。
阿部
舞台裏でも才能の結束が見事機能し、名場面が生まれていたのですね。最後にアクションシーンにも触れたい。ハリウッドの近作は格闘場面の劣化が進んでいて、マーベルの配信作も手際が悪い印象が多い。その点、東映の特撮活劇は引き締まっていて見応えが違います。
大森
そこは我々も自信があります。『キングオージャー』はロボ戦がメインで、等身大の戦闘シーンの尺は短いんです。その中で、どうやって本作らしい見せ方ができるかは試行錯誤していて。アニメの表現から学んだりしていますね。
阿部
伝統と革新があるんですね。東映の活劇撮影のノウハウは継承されるべきです。『キングオージャー』はまだ中盤ですが、大傑作であるのはすでに明らかなので、遠慮なくやり切ってください。
大森
ありがとうございます。阿部さんの言葉を胸に最後まで走り抜きます。