「好き」と「面白い」の違いに気づいた原体験
TaiTan
藤岡さんの最新刊『ぞうのマメパオ』(3月中旬発売)、発売前の原稿を読ませていただきました。まずなにより、名前がかわいいです。
藤岡拓太郎
ありがとうございます。今回の絵本は「かわいい笑い」を追求したものになっていて。そういえば「奇奇怪怪明解事典」のアイコンも象のモチーフですよね? なんでですか?
TaiTan
ガンダーラの旅をのそのそとゆく動物……というのを番組のアイコンにしたかったんです。それで、(玉置)周啓くんにインド象のイラストを描いてもらいました。
藤岡
おお、「マメパオ」もインド象ですよ!
玉置周啓
奇跡だ。象という言葉には、目に見えないものに形を与えるという意味もあるので、アイデアとしてはぴったりかな、と。
藤岡
僕も書籍『奇奇怪怪明解事典』、今読んでいるところです。笑いに関しての話も多くて面白いです。単に面白いコントの話だけでなく、第12巻の「誰も傷つけない笑いの嘘」などでは、笑いの構造や多様性について、デリケートな部分もしっかり考察されていて、本当に貴重だなと思いました。番組を初めて知ったときは、面白いブログのバックナンバーを遡ったら膨大な量があって、うれしくなっていったんコーヒーを入れにいく……みたいな興奮があって。書籍で読めるのが本当にうれしいです。
TaiTan
それはなによりの賛辞です!
玉置
僕は6年前にTwitterで藤岡さんのことを知って、そこからマンガを読み始めたんです。
TaiTan
僕も藤岡さんの『夏がとまらない』(2017年)が出てすぐに読んだ記憶があります。
藤岡
だいぶ初期のころから! うれしいです。
TaiTan
さっそくゴリゴリのお笑いの話題で申し訳ないのですが、藤岡さんが「ギャグ」に興味を持ったのっていつごろなんですか?
藤岡
小学校3年生くらいのころに、友達の家で「学級王ヤマザキ」のアニメがやっていて。もとは『コロコロコミック』のギャグマンガなんですけど、友達に「藤岡はヤマザキとポケモン、どっちが好き?」って聞かれたんです。それで「好きなのはポケモンだけど、面白いのはヤマザキ」って答えた記憶があって。その友達も、友達のお母さんも「どういうこと?(笑)」ってなってたんですけど「そういうこともあるやろ」って思ったんです。
TaiTan
原体験の解像度が高すぎる……。その回答自体が藤岡さんのマンガっぽくてうれしいです。
藤岡
そのあとマンガの「伝染るんです。」(吉田戦車)にハマって。「こういう笑いもあるのか」って衝撃を受けました。おふたりの笑いの原体験は?
TaiTan
僕は子供のころ『爆チュー問題』を熱心に観てたんですけど、あれって低年齢向けのコントの皮を被った不条理劇なんですよね。それがすごい不気味だったんですよ。
藤岡
それは子供心に衝撃を受けますよね。
玉置
僕の原体験は「トムとジェリー」です。
藤岡
「トムとジェリー」は僕も、今でも大好きです。あとはバスター・キートンとかチャップリンの無声映画を小4あたりで観てたのはすごいよかったなと思います。
玉置
最初は古典的でベタなものにしっかり触れてきたんですね。
藤岡
あとはギャグマンガだと「ピューと吹く!ジャガー」とか「ギャグマンガ日和」ですね。
玉置
「ピューと吹く!ジャガー」は、ボールペンを舐める仕草がエロいとわかった女性キャラが、ベトベトになるまでボールペンを舐める回だけ読みました。
藤岡
なんでその回だけなんですか?
玉置
角刈りかスポーツ刈りの2択しかない地元の床屋さんに置いてあった『週刊少年ジャンプ』で……。
藤岡
その床屋さん、今度紹介してください。
TaiTan
みんなで行きましょう。
ドキュメンタリーのカメラを回してとっとと逃げる
玉置
藤岡さんがマンガを描くようになったきっかけは、「ピューと吹く!ジャガー」「ギャグマンガ日和」の影響が大きいんですか?
藤岡
大きいと思います。「ギャグマンガ日和」は、中学のころに笑いすぎてページがめくれなくなったくらいの衝撃で。増田こうすけさんのギャグのセンスに撃たれたというか。
玉置
たしかに、純然たるナンセンスというよりも、もう少し日常に起こりそうな瞬間を描いている印象がありますよね。
藤岡
あと「奇奇怪怪明解事典」でも話されていたと思うのですが、日常からの微妙な飛躍でいうと「HITOSI MATUMOTO VISUALBUM」の「古賀」はかなり影響を受けました。
TaiTan
「VISUALBUM」はかなり革命的な出合いでしたね。「古賀」ももちろん好きですし「寿司」とか「都…」も好きです。
藤岡
「ゲッタマン」も好きでした。ちなみに「モーニングビッグ対談」は観てました?
TaiTan
去年テレビ東京の上出遼平さんとDos Monosで『蓋』っていう番組を作ったんですけど、あの作品の着想の根本には、あの手のフェイクドキュメンタリーがあったんですよね。
藤岡
フェイクドキュメンタリーでいうと、僕のマンガもドキュメンタリーのカメラを回すみたいに描く感じはあります。
玉置
藤岡さんの世界に実在している人物をスケッチするということですか?
藤岡
そんな感じです! どこかにある異常な世界にお邪魔して、カメラを回してとっとと逃げるみたいな。
TaiTan
すごい……。
玉置
それを聞くと、唐突なキャラクターの登場と同時に、その世界で起きていることの意味がわかる……っていう藤岡さんのマンガの構造が理解できる気がします。
TaiTan
これまでの藤岡さんの中で、「これはいいのが撮れたぞ!」と手応えのあった作品はありますか? 僕が好きなのはいろいろあるんですけど、「おでん」とかは腹が爆発しそうになるくらい笑いました。
藤岡
あ、これですね。
玉置
本当に目が怖い。
TaiTan
最後だけ「食べろや!」なんだよな。
藤岡
共感性がほとんどない、「くだらねえ」だけで描けたときはうれしいです。僕の中では、この3つですかね。
TaiTan
炊飯器のやつは、初めて読んだときも「ノッてるなあ」って思いました。まさに藤岡ワールドって感じがする。
玉置
「コロッケ」は言ってることと顔が一致してるんだよな……。「プールびらき」は、ビート板に矢が刺さるときに「たす」っていう擬音を観て、「そういう音がするんだ」って思って興奮しました。実際にその音を聞いたことはないんですけど、鮮明にイメージできるというか。
藤岡
「伝染るんです。」を読み返したときに、人の体に矢が刺さって「とっす」って書いてあるのがあって、「うわ、これがルーツだ」と思いました。
玉置
「炊飯器」と「コロッケ」はストレートに爆笑したっていう感じだったんですが、「プールびらき」だけはどこか懐かしいというか、哀愁のようなものを感じますよね。
藤岡
癖でそういう描き方になってしまうんですよね。ギャグマンガとしていいのか悪いのかわかりませんが……。なんか妙に情感が出てくるので、それを抑えようという闘いが自分の中にある気がします。
TaiTan
笑いを積み上げていくなかで、ノスタルジーとかはちょっと避けたいのもあるんですか?
藤岡
もっとバカみたいな「くだらない」だけで突き通したい自分もいるというか。でも、ノスタルジーとか郷愁が笑いに関与してくれるんだったら避けなくてもいいかな、とは思いますね。
TaiTan
それはわかる気がします。僕たちの番組でもノスタルジーを刺激するような話は頻発するのですが、それが笑いを生んでいるか、安易に共感を手繰り寄せにいってるのかは編集の段階でジャッジしてカットするかどうか決めてます。
藤岡
おお、「奇奇怪怪」でもそんな闘いがあるんですね!