愛って、不完全さの肯定だ
ジャック・タチの作品にはたくさん影響を受けていますが、「胸を打たれたシーン」とか、感動して泣いた!みたいなことはなくて。でも作品全体を通して、人間への深い愛を感じるんです。
舞台は第二次世界大戦後のフランス。今見ても色褪せないモダンな建築やインテリアの中で、のんきなユロ伯父さんも、プラスチック会社の社長夫婦でさえも、ハイテクな設備にもたついてばかり。この映画はそういった人間の不器用さを捉えた作品ではあるものの、ことさら強調はせず、あくまでも景色の一部として描いていて。ジャック・タチが「人間って馬鹿だよな、この程度なんだよ。でもそれでいい」と、日々の失敗や人間の不完全さを肯定してくれているように感じるんです。その当事者を、監督本人が演じているのもすごいなと。
階段を下りる、歩くといった小さな動きにも小ネタがたくさんあって。人間の不合理な動きをかなり細かく映しています。一見物語に必要ない、観る人によってはイライラしてしまうような無駄な動きなのですが、人間の動きってそもそも無駄ばかりだよなと。もしかしたら、ちょっと変わったユロ伯父さんを愛らしく思えるのは、普段見過ごしがちな人間らしさに溢れているからかも。無理に着飾って生きるよりも、考えすぎずありのままでいた方が、他人も愛を持って接してくれるのかな、と映画を通して考え中です。