愛って、些細な日常の記憶
よく本棚のシーンの親子愛や人類愛が話題になりますが、自分としては、よく見ないと気がつかないような、リアリティを出すための細かい演出がとても好きです。宇宙船内のシーンで、窓から見える機体の翼に、よく見ると誰かが歩いた足跡がついているんですが、それがめちゃくちゃ好きで。ほかにも、無重力で浮いているペンを手でどかす仕草とか、小物の一点一点から積もった埃の感じとか。映画の中で存在する生活感を大切にして、しっかり描いているところがすごくいいなぁと思います。
かつて連載していた『森山中教習所』が映画化した時、撮影現場を見せてもらったんですけど、開けるはずのない本棚にものが入っていたんです。「置くことで醸し出されるものがある」と美術さんが言っていて、すごいなと。見えないところもこだわることで、良いものができるんだと改めて感じました。
僕自身も漫画を描く時に、わざわざ描かなくていいものをあえて描くことを大切にしています。一見無駄に見える部分に、みんなの中にある潜在的な記憶が宿っているなと思う。昔、窓際に置いてある缶コーヒーの描写を友達に褒められたことがあって。別に描かなくてもいいけど、確かにそういうところに置くよねっていう(笑)。そういう些細な日常の記憶こそ愛おしいし、それが僕にとっての愛の描き方かなと思います。『インターステラー』からも、そんな愛を感じます。