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河原で露天風呂に浸かる。野趣あふれる名湯の宿、川湯温泉〈冨士屋〉

自然が作るデコレーションは、人間の創造力を軽々と超えてくる。そんなところに風呂を作る、人間の温泉欲にもまた驚嘆する。
初出:BRUTUS No.858『温泉 愛』(2017年11月1日号)

photo: Kiyoshi Nishioka / text: Ikuko Hyodo

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冨士屋(川湯温泉/和歌山県

清流にとっぷり浸かって大地の温もりをじかに感じる

最近は、欧米人の姿が多いという熊野詣。熊野三山が“ミシュラン3ツ星”になったことが、その理由の一つ。キリスト教の聖地として知られる、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路と熊野古道が、世界で2つしかない道の世界遺産であることにも注目が集まっているらしい。

熊野のような日本古来の文化が色濃く残る地に好んでやってくる外国人なら、温泉も当然のごとく経験済みだったりするのだろうが、それでもやはり、川湯温泉には驚かされるに違いない。

深い山々を縫って流れる、紀州の大動脈・熊野川。川湯温泉はその支流である大塔川に沿って宿が連なる温泉地なのだが、川底から源泉が湧き出ているため、川を掘れば温泉ができるのだ。

川湯温泉に到着すると、小雨の降る中、〈冨士屋〉のスタッフが、小型の重機で露天風呂を作っている最中だった。大塔川は増水しやすく、この日も数日前の台風の影響で水位はやや高め。

名物の河原露天風呂は、砂利を積んで壁をこしらえているだけなので、増水すると流されてしまう。そのたびに川の状況を見ながら、ちょうどよい場所に作り直すのだが、手作り風呂だけに、季節によっても自由自在に形を変える。

基本的に〈冨士屋〉が河原露天風呂を提供しているのは、3月〜11月。ただし夏休み期間は別で、スコップ持参で“MY露天風呂”を掘りながら、川遊びをする人で河原が溢れる。そして12月〜2月になると出現するのが、仙人風呂。

川湯温泉の宿泊施設と熊野本宮観光協会が毎年作っている巨大露天風呂で、熊野本宮大社の初詣客などに人気。年齢や性別だけでなく、国籍も超えた人々が大きな風呂に一緒に入るさまは、平和の象徴……なんて言ったら大袈裟だろうか。

さて気になる河原露天風呂の入り心地だが、73℃の源泉に清流が混ざり合い、ずっと浸かっていられるような、程よい湯加減。座る場所によってお湯の温度が違うため、ちょうどよい場所を探してみるのも楽しいし、手で川底を軽く掘ると熱いお湯がじんわりと湧いてくる。

大塔川のエメラルド色に輝く川面を見ながら入るのはもちろん気持ちいいが、しんと静まり返った暗闇で、満天の星を眺めながら入るのもまた格別だ。

長湯をしていると、上流から現れたカモのつがいが、常連のようにこなれた様子で露天風呂に入ってきた。野趣あふれる温泉は日本人も外国人も、さらには動物をも引き寄せるパワー温泉なのだった。

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