Love

映画監督・山田佳奈と女優・伊藤沙莉が語る、不器用な私たちの愛と性

映画『タイトル、拒絶』は、デリヘルの世界を舞台とした男女の群像劇。さまざまなコンプレックスを抱えた若者たちが、愛に飢えながらもセックスワークに携わる。現代の「恋と、セックス」が浮き彫りになった映画だといえる。監督の山田佳奈、主演の伊藤沙莉が語り合った。

Photo: Shota Matsumoto / Hair&make: AIKO / Styling: Akane Yoshida (Ito) / Edit: Izumi Karashima

恋と、セックス

山田佳奈

人の愛し方って、教えてもらえるわけではないじゃないですか。勉強とは違うから。私はやっぱり、経験することでしか愛は学べないと思っていて。他者と交わっていくことで、自分の「かたち」を見つけていく。だから、恋というのはそのいちばん最初。レベル1。愛に向かう過程だと思いますけれど。どうですか、沙莉さんは?

伊藤沙莉

私もそう思いますね。恋は最初の一歩。

山田

以前、不良の子たちの話を聞いたことがあって。やっぱり大半が少年少女時代の愛情不足。草木で譬えると、根っこに水が足りてない人もいれば、水をあげすぎて腐っちゃう人もいる。いかに水をあげるのか、そのバランスを探っていくことがすごく大事で、それは恋も同じじゃないかなって。

恋って、一瞬のときめきで、その後は、水の量や鉢の深さを知って育てていく。そこで実るのが愛だと思うんです。だから、お互いに「水くれ!」って言い合っていると育たない。今回映画で描いた人たちは、男も女も「水くれ!」っていう人たちの集まりだなって。

伊藤

でも、そういう人たちって、最近多いと思う。そもそもコミュニケーション自体、難しく考える人が多いし。かく言う私自身も得意じゃない。ゆえに愛を探し中というか。

山田

不器用な人、多いですよね。

伊藤

傷つきたくない人が増えてるんですよ。大事にしすぎて踏み出せないというか。でも、傷つくことで意外といい味になったりするときもあるじゃないですか。だからそこは、ちょっと前のめりになる方が、意外といい経験できるんじゃないかとは思う。

でも実際、じゃあ自分はどうなの?って言われたら、全然傷つきたくないんで(笑)。人にはいくらでも言えるけれど、自分のことになると「始まりってどうすんだっけ?」って、わかんなくなってきて。

山田

じゃあ、いま恋はしてない?

伊藤

学生時代と違って、ちょっとしたことでキュンキュンできなくなってきたんです。冷静になってきたというか。恋は周りが何も見えなくなるくらいが、本当はちょうどいいし、幸せなんだろうなって。

山田

いままでに何も見えなくなるような恋の経験ってない?

伊藤

全然あります。みんなに「やめな」って言われても、「関係ないでしょ!」みたいな感じの恋は、全然あります。あ、不倫じゃないですよ(笑)。

結構前のことだから言っちゃいますけど、撮影中に持ち道具のカバンにずっと携帯を入れてましたもん。鳴ったらパッと確認して、「あ、来てない……」みたいな(笑)。バカだったなあって。でも振り返れば、そのくらいのことをもう一回してみたいと思うんです。

山田

若気の至りの恋をね。

伊藤

期待するから傷つくんだとだんだんわかってくるから、究極の自己防衛は「期待しない」。で、どんどん……。そんなことないですか?

山田

沙莉ちゃんより10歳上ですけれど、同じ。傷つきたくない世代。でも、上の世代の人たちは積極的。40代50代の人たちは。パッと手をつないできたりするし。でもこっちは別に好意はないから、「ご勘弁を〜」って感じで、「どうしよう、どこで放そう。一緒にタクシーには乗り込んでこないよな」って(笑)。

伊藤

うわ、目に浮かぶ〜!

山田

圧倒的に恋愛をしてきた世代なんですよね。でもやっぱり、私はそういうことに不慣れなので、「これに乗ってみたら楽しいんじゃないか。でも、いやいや待って、社会性」みたいな狭間を行ったり来たりで。私も彼らと同じ世代だったら、グイグイ楽しく、いろんなスポーツカーを乗り回してたのかもしれない、と。そういうのは憧れますよ。

伊藤

私たちは恋が楽しめない世代。

山田

傷つくのがどうしても怖いんだよね。同世代や自分より下になると、様子見られてる感がすごくある。ものすごく石橋叩いて、壊れるよってくらいずっと叩く。

私自身もそう。だからマッチングするのが難しくなってきてる。でもその半面、セックスはリーチしやすい感じになってて。

伊藤

あ、確かに。恋を飛び越えてセックスに行っちゃう感じ。

山田

そうそう。欲はあるんだよね。「あ、そんなに気軽に?」みたいな。男の子の話を聞いてると、「女友達と飲みに行った流れでスイッとエッチして」とか言うし。「え、ちょっと待って。その流れで、どうやって至るの?そこに何か言葉はあるの?」「いやいや、雰囲気」「雰囲気って何?どっちかが言いださないと、そこまで行かなくない?」

伊藤

「雰囲気」って(笑)。

山田

いかんせん私がそういうのが苦手。友達は友達でしかないし、どうしたら体の関係になるのかわからない。女の子は女の子で、「またヤっちゃった〜」みたいな子も少なくない。私はどうしても奥手で友人に手を出すことに躊躇するからダメ。

伊藤

私たちの年代だと、すでに、恋とセックスはイコールではないかも。「それはそれ」って言う子の方が多いと思う。でも、逆に言っちゃえば、それを経たうえで、「あ、全然合わなかった」となれば、それで終わりでいいし、合えば、じゃあ付き合おうかってなって恋が生まれる。

たまに、順を追って「いたす」関係になったときに、あれ?違くない?ってなって面倒くさいことになることもある。だったら最初にいたせばいい、というような。

山田

そこまで行ってダメなのはコスパが悪い!っていう(笑)。

伊藤

SNS時代っていうのは、絶対にある。話をしてゆっくり相手を知るとか、相手を待つとか、そういう時間を愛おしく思えない人が増えてる気がする。上の世代の人たちって、連絡をすぐにとれないのが当たり前で、「会えない時間が愛育てるのさ」世代じゃないですか(笑)。

本当は私もその方が好き。いまってITを駆使してスミからスミまですぐ知ろうとする。位置情報で相手がどこにいるのかまで把握したりもするし。「こんだけ一緒にいても、マジで何考えてるかわかんない」くらいの方が私は楽しいもの。

映画『タイトル、拒絶』のワンシーン
2020年11月13日公開の映画『タイトル、拒絶』は山田佳奈監督の初長編監督作品。自身が主宰する劇団〈□字ック〉の舞台を映画化。デリヘル嬢たちの世話係を務める主人公カノウ役を伊藤沙莉が熱演。店長役を般若が演じている。©DirectorsBox

セックスしたい女も欲を表に出そうよ

山田

セックスって、初めてのセッションのときに、女の人がグイグイ上に乗ったら、嫌がりますよね、男の人たちは、きっと。「積極的な女性が好き」とか言うくせに、「声が大きくて萎える」みたいな男の子の愚痴を聞くと、「言ってることが違うじゃん!」って思うんだよね。

伊藤

「引くわ〜」っていう(笑)。

山田

そう。そうすると、やっぱり、「男性のオレ」「女性のあなた」みたいなものは、この時代になっても相変わらずだなあって。こっちだって上に乗りたいときもあれば、積極的に行きたいときもある。いつまでも男の人の反応を気にしながらセックスに臨むのは、すごくバカげてるなあって。

でも、そう思いながらも、どこかで、「こんなことをすると引かれないかな」なんて思う自分もいる。そこがモヤモヤするんです。

伊藤

求めてもらえないという悩みを抱えてる女の子って実は多くて。それこそ私、インスタのストーリーで「質問コーナー」というのをちょくちょくやるんですけど、たまにあるのが、「彼と付き合って半年経つのに、まったく何もしてきてくれない。どうしたらいい?」みたいな悩みで。

私はあんまり長い文章で返さないから、「待ちたいの?」とだけ書いたんです。待ちたいなら待てばいいけど、自分は彼としたい、手をつなぐでも、ギューするでも、チューするでも、したいんだったら欲に従っていいんじゃない?って。

山田

ふふふ(笑)。ごめんなさい、思い出して笑っちゃった。私もあったんです。ずいぶん昔に付き合ってた彼の話だけど、あるときセックスレスになって。私はどうにかセックスしたいと思って、ベッド専用香水を買ってみたんです、まず。シュッシュッと枕にやると、性欲に作用するみたいなやつを。

伊藤

そんなのあるんだ!

山田

そう。でも全然効かなかった。

伊藤

意見として多いのは、「下着をセクシーに」とかだけど、たいして見てないじゃないですか、下着。

山田

下着は全然見てない!

伊藤

マジ見てないですよね!

山田

でね、ほかの手はないかと思ったときに、「疲れてる」って言うから、「じゃあマッサージしてあげる」って、川のせせらぎの音声を流しながら、背面を押し始めた。すると相手は油断するんです、気持ちいいから。「じゃあ表を向いて」って言うと、何も考えずに仰向けになる。

で、ポンポンポンと始めると「頼んでませんけど」ってなってるんですけど、「サービスでーす」って(笑)。そうすると確実にプレイになる。体の反応には人間抗えないから(笑)。

伊藤

いいこと聞きました(笑)。

映画監督 山田佳奈
山田佳奈さん
女優 伊藤沙莉
伊藤沙莉さん

山田佳奈の「恋の、答え。」

「岡崎京子さんが大好き。『pink』をカバーしたい。映像化するのも捨てがたいけど舞台化がいいかも」。

伊藤沙莉の「恋の、答え。」

「映画『ハルフウェイ』。私は姉御肌だと言われるけどめっちゃ乙女で妹気質。この映画の北乃きいちゃんと同じです」。