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井口可奈のお笑いライブ偏愛日記:第27回『ハルキ・ハルキ・ハルキ』

小説、俳句、短歌などを書く井口可奈が、訪れたお笑いライブを熱く語る連載、第27回。前回の「コントありがとう」も読む。

text: Kana Iguchi

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公演日:8月10日
公演名:『ハルキ・ハルキ・ハルキ』

『ハルキ・ハルキ・ハルキ』

村上春樹の作品でよく知られる語彙は「やれやれ」などいくつかのものに限られます。でもそれだけ知っていればいいの?村上春樹ってもっと奥の深いものであり、われわれは深淵を覗き込まなくてはならないのでは?そんな春樹愛に溢れたコントや企画のライブが『ハルキ・ハルキ・ハルキ』です。

オープニングコントでは、神宮球場で野球を見ていたときに小説を書こうと思い立ったという村上春樹のエピソードを扱っています。洛田二十日が一人で演じる村上春樹は変な天啓ばかりを得てしまいます。

大喜利パートでは、ズボンとシャツが緑と赤で、つまり『ノルウェイの森』の装丁の服装をした田中(リョーターナー)のズボンが胸まで引き上がるまで終われないというものが一番面白く感じました。回答の良さによってズボンを引き上げる高さを変える淡々とした田中の表情が、村上春樹の世界観を演出している気がしてくるから不思議です。大喜利の回答は村上春樹の作品から影響されたもので、多くの回答で『ノルウェイの森』で直子が手でしてくれるという描写が使われていることに、たしかにその場面は作品群において象徴的な場面だなと感じました。

村上春樹作品で頻出のモチーフといえば井戸ですが、井戸の底に降りるには井戸の深さを知っていないと怖いものです。このライブには、村上春樹を知っていればもっと底へ降りていきたくなり、あまり知らない人も底へ降りることができるように感じる気軽さがあるように感じました。もっと深く春樹を知りたくなる、文学とお笑いの繋がるライブでした!

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