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Kan Sanoはいかにして、音楽をディグしているのか?音楽家としてのリスナー論

2011年にデビュー以降、自身の作品はもちろん、楽曲提供やアレンジなど、数多くのアーティスへ楽曲提供や客演を続け、トム・ミッシュをはじめ世界のアーティストとのコラボも多数あるKan Sano。彼のバックグラウンドになっている音楽地図とは、一体どんなものなのだろうか。

photo: Jun Nakagawa / text: Katsumi Watanabe

毎週リリースする謎のアーティストを見つけられるサブスクの面白さ

4月27日にリリースを控える新作『Tokyo State Of Mine』では、BTSのメンバーRMが注目する韓国の男女2人組ユニット“Dosii”など、豪華なゲスト陣を招聘。ジャズやソウルミュージックをベースにしたバックトラックに、日本語詞で歌われる甘美なメロディには、世界中のリスナーからの反応も熱く、2020年代の新しいスタンダードと考えるべき作品になっている。

そんなKan Sanoにここ最近の音楽の探し方、サブスクリプションとレコードの使い分けなどを聞いてみた。

「自宅でゆっくり音楽を聴くときはアナログレコード、車で移動するときはSpotifyなどのサブスクリプションで、新しい曲を聴いていることが多いですね。

30歳になった頃かな、古いジャズやソウルミュージックばかり繰り返し聴いて、新譜をチェックすることを忘れていたんです。そんなルーティンにも飽き、Spotifyで新しい曲やミュージシャンを探し、プレイリストを作ってシェアすることにしました。自分の中でルール化すれば、怠らないと思ったんですよね(笑)。

最初は義務的でしたが、どんどん掘っていくうち、次第に新しい音楽を聴くことが楽しくなっていきました。お気に入りの中には、例えば、オーティス・マクドナルドというミュージシャンのように、ほぼ毎週新曲をリリースしている人もいて。発表する曲が、また全部よくてびっくりするんですよね。

彼の楽曲や活動のエナジーから刺激を受けるし、子供の頃、月曜日に「週刊少年ジャンプ」が出るのを待ちわびる感覚を思い出したりして(笑)。サブスクの登場で、近年は音楽との距離がまた変わったと思います」

Kan Sanoとレコード

最近では、インターネットを通じて出合った音楽を、改めてアナログレコードで購入する機会が増えたという。

「サブスクが便利なことは間違いないけど、その一方で新しい曲がどんどんリリースされるため、いい音楽を見つけてもすぐに流れていってしまう。だから、なかなかアーティスト名が覚えられないでいますね。お気に入りの曲があっても、一度で名前を認識することができず、同じ人が何回か好みの曲を発表してくれて、ようやく名前を覚える感じです。

そんな曲を、移動中にプレイリストで繰り返し聴くうち、段々と曲やミュージシャンへ愛着を感じてきて、どうしてもレコードでも欲しくなってくる。フィジカルでのリリースをネット検索し、盤が出ているとわかると、やっぱり買っちゃうんですよね。サブスクで気に入った作品を、レコードでも買うという循環が、日常化しています」

ネットは狙い撃ち、レコード店は出合い

レコードの買い方にも、2年間のコロナ禍で変化があったという。

「レコードは、絶対にお店で買うことにしていました。しかし、ここ2年の間、なかなか外出することもできなかったため、仕方なくオンラインショップを使うことにしたんです。しかし、サブスクで出合った作品は、インディーズレーベルやミュージシャン個人で音源を管理していることが多く、レコードは予算の都合で数量限定発売されることが多く、すぐに売り切れる。カナダのバンド、メン・アイ・トラストのアルバムなんか、めちゃくちゃネット検索して、やっと買えました」

「店頭で購入する自分内ルールを守っていたら、手に入らなかった作品もあったと思うので、タイミングって不思議だなと思います(笑)。逆に、中古のジャズやソウルミュージックなどは、オンラインストアやオークションなどでは、少し高い気がするんです。最近は少し前に比べて外出できるようになってきたので、レコード屋さんへ行ってみると、オンラインに比べてすごく安い気がするんですよね」

実際にレコードを買う店を聞いてみたところ、音楽好きらしい答えが返ってくる。

「都内の場合は、ディスクユニオンが多い。渋谷や下北沢など、用事があるところに必ずユニオンがあるので、必ず立ち寄っちゃいますね。最近は遠方へ行くこともあります。中古レコードのタチバナ(横浜)、タイムマシーン(調布)のような老舗は、バークリー音楽大学へ留学していたときに通っていた、小さいけど、マイペースなレコード屋さんを思い出しますね。

それから、ライブで地方に行ったときに、ブッキング担当の方が気を使ってくれて、レコード屋へ連れて行ってくれるケースもあります。それと同時にレコードを扱っているリサイクルショップを回る機会も増えましたね。車で街道沿いを走っているとき、「すいません! あのハードオフに寄ってもらっていいですか?」ということもあります(笑)。サブスク経由レコ屋行きという流れができて、新旧問わず、まだ聴いたことのない音楽との出合いを楽しんでいます」

サブスクでは聴けない愛聴版

サブスク経由で手に入れたレコード