デザートに定評のあるシェフの掛川哲司さん、メディアのパン特集に引っ張りだこのライター、池田浩明さん。作り手、食べ手の両面から、こだわりが炸裂するフルーツサンド談議、開幕。
掛川哲司
僕のフルーツサンドタイムは、大抵、明け方の4時ぐらい。
池田浩明
オーッ、朝4時!
掛川
レストランでヘトヘトになるまで仕事した後、家に帰ってフルーツサンドを食べるのが、至福の時。心と体がほどけていく感じがするんですよ。
池田
僕は“これ以上、原稿、書けません!”って時、気分転換に。現実を忘れさせてくれる“楽園感”がある。
掛川
わかる。口に近づけた時、最初にくるパンのイーストの香りと、それに続くフルーツと生クリームの香りね。
池田
そして、一口食べると、果汁がジュワッとはじけて、それが生クリームにかかる瞬間が、天国ですね。
掛川
だから、必ずパンが両サイドになるよう、縦にして食べます。そうすると、最初に前歯のあたりにフルーツが当たって果汁がはじけ、生クリームと一つになってくれる。横に食べると、パンに楽園入りを阻まれる(笑)。パンは食べる前と最後に来てほしい。
池田
フルーツは、カットの仕方で楽しみ方が変わりますね。〈千疋屋総本店〉や〈銀座千疋屋〉は、薄切りが重層的にサンドされていて、2~3種が同時に口に入った時の組み合わせの妙がある。一方、それぞれフルーツのおいしさを、食べる箇所によっていろいろ楽しめるのが〈GELA'C〉や〈ホットケーキパーラー Fru-Full〉、〈つるばみ舎〉です。
掛川
〈Fru-Full〉ぐらい、一つ一つのフルーツが大きいと、噛んだ瞬間の果汁のはじけ方もダイナミックで、楽園感が増幅しますよね。
池田
三角形のサンドは、断面の美しさを愛(め)でつつ、どこから食べようかなぁと迷えるのも愛しいところで。
掛川
断面には店の本気度が表れるから、まずそれを鑑賞して、酸味のあるイチゴからいくかな。そこからメロン、バナナ、缶詰の黄桃と続くのが理想。黄桃でノスタルジックに終わりたい。
池田
僕もイチゴショートに通じる楽園感を求めているので、イチゴは必須。クリームもカスタードではなく100%生クリーム派。
掛川
そこにあえて踏み込んだ進化形が、豆乳クリームの〈HAPPY HOME KITCHEN〉や、マーマレード入り〈Bird〉。
池田
そう、楽園の新しい形に挑んでいますよね。
掛川
新しめの店は、王道の味を追求するか、新しさを提示するかに分かれる。〈GELA'C〉は前者の成功例。フルーツ、生クリームに加えてパンもいい。気泡が入った食パンの生地が、生クリームとの一体感を生んでいる。
池田
難しいですよね。パンがおいしいからといってサンドにして旨いかといえば、発酵の香りが強すぎたり……。
掛川
シンプルなのに、安易に参入できない特別感があるのもいいのかなぁ。
池田
だから、女子への手土産には、フルーツサンドの威力が絶大なんですよ。ちなみに、〈メルヘン〉のフルーツサンドが、自分へのひそかなご褒美っていう人もいますよ、友人に。