古き良き時代の日本の雰囲気を、電子楽器などを用いて現代的なアプローチで表現する冥丁(めいてい)。2018年に発表された『怪談』は、海外における日本のアンビエント/ニューエイジ発掘と相まって、世界中でファンを獲得した作品だ。リリース5周年を記念して初CD化、LP再発売される。制作の経緯を聞いた。
「音楽制作にあたり、基本となる題材を探していたんです。そんな中、装丁を新たに再発売されていた『小泉八雲/骨董・怪談』を、7年前に読んでみました。怪談のファンというわけではありませんでしたが、八雲作品の世界観を音楽化したら興味深い作品になると確信を持ったんです。また『怪談』制作以前の京都に住んでいた時、日本の情緒や湿度を伴う要素(環境)を音で解釈したEP『夜分/冥丁』の制作を既に終えていたこともあったので、そこに怪奇的な要素をミックスさせると、怪談のような楽曲が仕上がるかもしれないなとも」
オリジナルで書いたセリフを、自ら朗読した「塔婆(とうば)」や「魍魎(もうりょう)」は、怪談のようでありながら、ラップのようなリズム感があって聴き心地がいい。
「ラップとは異なる方向性を模索して、日本的な表現にしました。声を使った歌モノのような楽曲にしたいと思い、何度も言い回しや録音された素材を確認しながら言葉を決めていきました。基本は地声で、特に声質を変えていません」
丹念な電子音と言葉のレイヤードはアンビエントよりエレクトロニカに近い。
「すべてオリジナルの音源や素材を使って制作しました。セリフ部分では自分の体験もモチーフにしています。『地蔵』では、幼少期に祖母と大きな扉のお堂にいるお地蔵さんへ蝋燭を灯し、香を焚(た)きながらお経を唱えた経験を反映しています。”おん あぼきゃべひろしゃ〜”というくだりは、お経を楽曲に合わせて読んだら興味深いと思ってやってみたもの。実際に今も仏壇のお地蔵さんへ唱えています。言ってみれば、祖母から教わった“おまじない”のようなものです」