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暮らす

2つの白壁空間を行き来する。アーティスト・鹿児島 睦のアトリエハウス

自由で快適な清々しい部屋には、どのようないい空気が流れているのだろうか。今回は陶芸家・鹿児島 睦さんが住む福岡県福岡市の住まいを訪れた。

初出:BRUTUS No.984「居住空間学2023」(2023年5月1日発売)

photo: Masaki Ogawa / text: Masae Wako / edit: Tami Okano

暮らす人:鹿児島 睦(陶芸家、アーティスト)

美しい白壁に囲まれて、美しい仕事に没頭する

「僕の創作の原点は、お菓子の包装紙や祖母の着物の柄。つまり文様や図案です。だから器を作る時も、好きな絵を自由に描くのではなく、皿というスペースの中に図案をどう配置し、余白をどう残すのかに神経を注ぐ。余白が大事なんです」

愛らしい動物や植物をモチーフにした器で人気の陶芸家、鹿児島睦さんは、2022年、福岡市内の住居をアトリエ兼セカンドハウスに建て替えた。家の主役は、建築の美しい余白でもある白い壁。毎日その大きな余白を眺め、器の上に余白を生み出している。

「初めは、ものを作る時間と穏やかな生活を守る、要塞のような小屋が欲しいと思っていたんです」と鹿児島さん。

設計を依頼された建築家の片田友樹は、窓のない正方形のハコの対角線上に壁を立て、三角形の工房と三角形の生活空間にスパッと分けるプランを考えた。生活空間には、土地の形状に合わせたスキップフロアのリビングダイニングや、創作の合間に仮眠できる屋根裏の寝室もある。

「三角形?と最初は戸惑いましたが、とても楽しいし、鋭角部分を水回りやキッチンにすることで、メインの空間が広く感じられる。何より、潔く分かれているから、もの作りとそれ以外の気持ちの切り替えがしやすくて、常にクリアな感覚で仕事に向かえるんです」

とにかく壁に囲まれて仕事に没頭したいし、囲まれるなら美しい壁がいい。ちなみに白壁は美術館で使われているのと同じ仕様。北欧製リネンの壁紙の上に白いペンキを塗って仕上げたものだ。

外から見ると白いオブジェみたいな建物だが、室内は真っ白な紙を複雑に折って組み立てたハコの中のよう。壁に窓はないけれど、複雑な形をした天井からは、穏やかな光が降ってくる。「俯瞰すると風車の形になっている」という屋根と天井が採光や換気の要になっていて、朝も昼も夕方も、心地よい光をもたらすのだという。

「この白壁と光が、空間の形を美しく見せているんですよね。しばらくはあまりものを飾らず、とびきりの余白を楽しもうと思います」