しなやかな踊り、美しい型、そして力強い見得。歌舞伎の動きは一瞬一瞬で観客を魅了する。その裏にあるのは幼少の頃からの稽古と鍛錬の積み重ね。歌舞伎役者であり、映画やドラマでも活躍する中村獅童さんに密着し、衣装の奥に潜む、歌舞伎役者の肉体美の秘密に迫った。
着物や袴姿からワークウェアに着替えると、鍛え抜かれた筋肉が姿を現す。なかでも大腿筋を中心とした下半身は目を見張るものがある。
「歌舞伎にとって最も大事なのは足腰の筋肉。歩き方、踊り、立ち回り、見得。どの動きをとっても、まず下半身が決まらないと成立しない。その基礎は幼い頃から稽古をしている日本舞踊によって鍛えられました」
日本舞踊
歌舞伎の基礎は、すべて日本舞踊にある
8歳で歌舞伎界に入った獅童さんは6歳から日本舞踊を続けている。「見ていると感じないと思いますが、日本舞踊の動きは腰の重心を常に下げているので結構辛い。歌舞伎で武将役を演じ、腰に刀をさして歩く時も、カラダが上下していると強そうに見えないので低重心。つまり舞台の上をすーっと歩くのは日本舞踊の動きなんです。小さい頃は手を背中の後ろで縛って稽古をしていたことも。それは手でごまかさないで下半身と胸を使って表現するためです」
立ち回り
力強く見せるための、伝統のルール
そして立ち回りでも、やはりものをいうのは下半身の筋肉だという。「腰を深く落として力強く見せる見得はもちろん、立ち回りはどの一瞬を切り取っても美しく見えるよう意識しています。大切なのは腰の使い方と足さばき。稽古中、師匠に“脚を見せてみろ”と言われることもたびたびあります。舞台の上では衣装を着ているから見えないけれど、動きにごまかしは利かないですから」
ワークアウト
より持久力をつけるための日々の鍛錬
長年の稽古の末に歌舞伎の筋肉は磨かれる。それを支えるのが日々のトレーニングだ。獅童さんは仕事の合間にトータル・ワークアウトにも通っている。「人生、終わるまで修業ですから」。そう話す鍛えられた足腰にこそ、伝統の美が継承される。