気鋭から巨匠までラブコールが止まらない俳優
まず印象に残るのは目元だ。同世代のフランスの人気俳優ヴァンサン・マケーニュも彷彿とさせる、やや下がった目尻が、優男の雰囲気を醸し出す。いや、それだけではない。瞳そのものも、イノセントな光を放っているかのようだ。ライカートも、彼を主演に抜擢した最大の理由は目だと、かつてあるインタビューで語っていたように。
オハイオ州の田舎町で生まれ育ったマガロは、高校から演劇を始め、その後ニューヨークに出て俳優活動を行うようになったが、もともと不安神経症を抱えていたこともあって、この世界での成功をそれほど期待してはいなかったという。そんなマガロに転機が訪れたのは、2015年のことだった。この年、トッド・ヘインズの『キャロル』で、ルーニー・マーラ演じるテレーズに絡むニューヨーク・タイムズの記者を、また、アダム・マッケイの『マネー・ショート 華麗なる大逆転』で、サブプライム住宅ローン危機の中で、空売りで儲けたトレーダーの一人を演じたのだ。どちらも高い評価を受けた話題作だったこともあり、マガロの存在は一躍注目されるようになった。
特に、ヘインズの『キャロル』に出たことは大きかった。ヘインズといえば、ライカートの師匠格の存在で、そのことも、『ファースト・カウ』での主役抜擢の後押しになったようだが、続く『ショーイング・アップ』でも、ミシェル・ウィリアムズ演じる主人公の彫刻家の、神経症気味で突飛な行動をする厄介な兄を演じているのだ。
乗り遅れたくない、マガロの快進撃
また、『キャロル』の脚本を書いたフィリス・ナジーの初監督作の『コール・ジェーン −女性たちの秘密の電話−』でも、その縁もあってか、ワンポイントながら魅力的な役を与えられている。
この映画は、人工妊娠中絶が違法だった1960年代のアメリカで、望まない妊娠をした女性たちの駆け込み寺となった〈ジェーン〉という、女性たちによるアンダーグラウンドな支援団体の活動を描いたものだ。その映画で、マガロは、その団体の摘発にやってきたのかと思いきや、実は友人の女性を助けてほしいと依頼をしに来た、ヒッピー然としたリベラルな刑事役をやっている。
さらに、マガロの快進撃は続く。今年最も注目されているA24映画で、すでにアメリカではあまたの賞を受賞している『パスト ライブス/再会』にもマガロは出ている。
初恋同士だった幼馴染みの韓国人の男女が、女性の方がカナダに移住したことで離れ離れになり、彼女はその後結婚してアメリカで暮らしているのだが、ずっと彼女への思いを抱いていた男性が急にニューヨークにやってくることになり、2人は24年ぶりの再会を果たす。そのことで、妻の気持ちがどう揺れ動くのか、夫は気が気ではないのだが、マガロはその難しい夫役をこの上なく繊細に演じているのだ。
実は、マガロの私生活上の妻も韓国系の女性で、マガロはこれほど等身大の役柄を演じたことはなかったというが、3人がバーカウンターに並んで飲むシーンでの、不安を抱きながらも、出しゃばることなく、2人の成り行きを優しく見守るかのような、マガロの距離の取り方や空気感の出し方など、まさに絶妙としか言いようがない。それは、映画を超えて、今あるべき男性の理想像を示しているかのようだ。
ジョン・マガロの時代が間違いなくやってくる。みなさんも、ぜひその目で確かめてほしい。