警察ドラマの新ヒーロー、誕生の予感!?
オダギリジョーが脚本・演出を務めるドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』。池松壮亮演じる主人公が、相棒の警察犬と不可解な事件の解決に挑むのだが、これがまったくもって一筋縄ではいかない警察ドラマだ。事件の緊張感に滑稽さが交差する、おかしなサスペンスとでも言おうか。
永瀬正敏、麻生久美子、細野晴臣、柄本明、佐藤浩市ら、挙げればキリがない豪華キャストたちが、気になる伏線を端々にちりばめていく。『ある船頭の話』がヴェネチア国際映画祭に正式出品されるなど映画監督としても優れた才能を現すオダギリだが、連続ドラマの脚本は初めて。
「去年の緊急事態宣言の頃、世界中が落ち込み不安な生活を送る中で、"笑い"や"娯楽"が心の余裕を取り戻すために大きな助けになるんだな、と改めて感じたんです。自分にとって、映画はアート性が重要ですが、逆にテレビは完全なエンターテインメントであってほしい気持ちが強く、今回は連続ドラマとして、ただただ楽しんでもらえればいいなという気持ちで脚本を書いていました」
王道である警察モノを選んだのは、真ん中に事件を置くことでストーリーを構築しやすいからだったと言うが、そこに「犬」という人間でない視点を入れることで、強い個性のある、無比の作品に仕上げている。俳優陣たちが本気で面白がっているのが伝わってくるのも魅力的だ。
「皆さん、この不条理な台本を気に入ってくれて(笑)、楽しんで遊んでくれていましたね。常に跳ねているような、躍動感のある現場だったと思います。ただ、自分自身は全然楽しめないんですよね。やっぱり作品作りに、それなりのプレッシャーを感じるんですよ。すべての責任を負う立場だから、毎日心配事が重なって食べられなくなって。どんどん痩せちゃって、みんなに心配されていましたね(苦笑)」
テレビドラマ制作は"挑戦"だった。
映画ではできない笑える作品を目指したというが、ドラマにはオダギリジョーが愛する映画からのインスピレーションもたくさん詰め込まれている。劇中には、好きな作品の話が登場する場面も。
「プロの脚本家だったら、本筋とズレるから切ってしまうようなシーンなんですけどね。でも僕は、一見いらなそうなセリフこそ実は大事だと思っていて。例えば、好きな映画の話をするだけで、なんとなく人となりがわかる。ストーリーを追うよりもその人間性を描く方が面白い時があると思うんです。
だから今回のドラマには、映画好きが喜べるところもあれば、音楽や衣装やお笑いなど、様々なカルチャーも引っ掛かりを入れておきたいと考えていました。世界の国々で放送された時に、日本のカルチャーに興味を持ってもらいたいという意識がありましたね」
影響を受けてきたカルチャーは、映画だけにとどまらない。オダギリジョーのなかの、そうした多様な文化のかけらと出会う楽しみもありそうだ。今回のドラマを「世に挑む作品になった」というオダギリジョーに、その裏側にある思いを聞いた。
「すべてにおいて挑戦的な作品になったと思います。自分がドラマを作ることがそうですし、内容的にもなかなか前衛的なものを、しかもNHKで放送することもそう。100人が100人喜ぶものではありませんが、元来モノ作りとはそういうものだと思うんです。世に問うて、賛否の論争を生むべきなんです。じゃないと作る意味がない。今までの既成概念を壊すには、そこまでやらないと無理なんだと思っています。ものを作るのはとことん挑戦的でないといけない と思う半面、心身共にメチャメチャしんどいんですけどね(苦笑)」