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ジャズ喫茶とリスニングバーの名店が寄稿する、ディスクリコメンド Vol.3

日本のジャズシーンを支え、豊かにしてきたジャズ喫茶とリスニングバー。日々ディグを欠かさない店主の選曲は、いつも新しい音楽を教えてくれる。好調なシーンに呼応するように、新しいジャズをかける店が増加中。全国15の名店が寄稿するディスクリコメンド!

photo: Masanori Kaneshita / text: BRUTUS

ジャズを追いかける店

Tangle

Michael&mio/東京・渋谷

Q1:2023年、一番かけた一枚は?

『There Is Only Love and Fear』Bex Burch

シカゴの新興ジャズレーベル〈International Anthem〉からの2023年作。一緒に日々店に立っている2人ともそれぞれ持っていてお互いこのアルバムからよくかけていました。現代ジャズ、ニューオーリンズ、アンビエント、電子音楽等のエッセンスがこの一枚に凝縮。ジャンルにとらわれず音楽を鳴らす歓びに沿ってくれる一枚です。(Michael)

Q2:近年登場した好きなプレーヤーと、その魅力を感じる一枚は?

『Surface』Quicksails

聴くたびに次に何を合わせたいかが万華鏡のように変わる、ジャンルを超える想像力を与えてくれるシカゴのアーティスト。電子音楽を主軸にしつつ、不意にジャズを覗かせる作品もあり、最新作の本作もその妙の魅力がちりばめられています。昨年単独来日を果たし、ソロアルバムをリリースしたサックス奏者のパトリック・シロイシも参加。(mio)

Q3:最近手に入れ、2024年たくさんかけていきたいと思う一枚は?

『Temporada Ciclónica』Error Subcutáneo

ジャズ、ラテン、電子音楽、果てはサイケデリックなロックの薫りまでも飲み込んで圧倒的なパワーとグラデーションで聴かせ切る一枚。アーティストThree Bodyを追いかけていて出会えた大切なレーベル〈RUNNING CIRCLE〉から2023年リリース。好きなものが輪になっていく出会いはいつでも嬉しい!2024年もたくさんかけたいです。(mio)

Q4:近年登場した好きなプレーヤーと、その魅力を感じる一枚は?

『Masterpieces by Ellington』Duke Ellington

針を落として音が鳴った瞬間に時代と場所を超越するようなアルバム。タイトルの通りデュークの1950年代の傑作です。あまりに優雅で幽玄で、もはや現代においては夢見心地のアバンギャルド。デューク推しの大好きな奈良の中古レコード屋さん〈ciruelo records〉から買いました。デュークのレコードをすべて揃える長く楽しい旅路の途中です。(Michael)

NEAR MINT TOKYO

渡辺優/東京・経堂

Q1:2023年、一番かけた一枚は?

『Tell the Ghost Welcome Home』Nico Segal

シカゴ出身のトランペット奏者兼プロデューサー。Chance the Rapperのプロデュースでも知られる彼名義の2023年の作品。全体的に浮遊感のある何層にも引かれたレイヤーのある構成の曲が多くトランペットにピアノやコーラスが重なり響き渡る。特に「In a Flurry」は、美しくも力強い彼の秘めた人間性が見えるよう。

Q2:近年登場した好きなプレーヤーと、その魅力を感じる一枚は?

『Post Koma』Koma Saxo

ECMでも活動するスウェーデン出身のベーシストのペッター・エルドが舵を取るコマ・サクソのセカンドアルバム。クラシック音楽、中東、エレクトロ、ヒップホップを感じる一枚。ベースに、クリスチャン・リリンガーのドラミング、前作に続きソフィア・イェルンベルグのスウェーデン民謡に通ずるボーカルも秀逸。特に「Portal Koma」は飛ばされます。

Q3:最近手に入れ、2024年たくさんかけていきたいと思う一枚は?

『Arise』Mili

Mili『Arise』
ぜひ今聴いてほしい一枚。アルゼンチン出身のボーカリスト、パーカッション奏者ミリ・ベルメホ率いるバンド。当時バークリー音楽院の教授もしながらリリースしたという情報もあります。特に1曲目の「Corazon」の力強いボーカルに後半の清涼かつ激しい展開は飽きがこない。ラテンジャズとUSのジャズが溶け込んだ名盤。

Q4:閉店後に自分のためにかけたい、個人的お気に入りの一枚は?

『2099』BIGYUKI

ニューヨーク在住日本人キーボード/シンセベース奏者。私がニューヨークに住んでいた頃の友人で、このEPの曲はサンプル段階から彼の自宅でよく聴きました。2020年コロナで街がロックダウンされた時、彼の曲は私に優しく寄り添ってくれました。特に「MRO(Water Tale)」は海中を光に向かいゆっくり泳いでいく感じがあの頃を思い出させます。

Bar Music

中村智昭/東京・渋谷

Q1:2023年、一番かけた一枚は?

『The Omnichord Real Book』Meshell Ndegeocello

ジャズの名門ブルーノートは、ミシェル・ンデゲオチェロという圧倒的な存在を求めた。「2023年、一番かけた一枚は?」という問いに真摯に向き合う時、BGMとしてLP全体をプレーしたのは『MUSICAÄNOSSA Slawek Jaskulke』だが、曲単位ならジョエル・ロスのビブラフォンも素晴らしく効いたこの「Hole in the Bucket」だ。

Q2:最近手に入れ、2024年たくさんかけていきたいと思う一枚は?

『Music for Saxofone & Bass Guitar』Sam Gendel & Sam Wilkes

2017年のサム・ゲンデル1stアルバム『4444』はアコースティックギターと自身のボーカルを中心に据えたシンガーソングライター然とした作品であったが、その翌年の配信シングルを起点とするスタイルの激変には正直驚いた。最初のデュオ名義となった本作は、よりポップサイドに位置するサム・ウィルクスとの相互作用が生んだ逸品。

Q3:最近手に入れ、2024年たくさんかけていきたいと思う一枚は?

『Rainbow Revisited』Thandi Ntuli with Carlos Niño

かつてビルド・アン・アークを手がけたLAのプロデューサーであるカルロス・ニーニョの創作意欲は、年を経るごとに高まっているように思える。中でも南アフリカのピアニストでシンガーのタンディ・ントゥリと共に描く虹の世界は、特に穏やかで優しい。1曲ならA面ラストの「Nomayoyo (Ingoma Ka Mkhulu)」、通してプレーするならB面か。

Q4:閉店後に自分のためにかけたい、個人的お気に入りの一枚は?

『Harvest Time Live 1977』Pharoah Sanders

うねるベース、メロウに揺らめくローズピアノ、そして深淵で朗々とブロウするファラオ・サンダース。来日公演には何度か足を運んだが、46年もの時を経て昨年初公開となった本『Harvest Time Live 1977』的な世界を体感することは叶わなかった。これは、天国へと向かった彼から僕たち音楽ファンへと贈られた、至極のタイムカプセルだ。