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ジャズ喫茶とリスニングバーの名店が寄稿する、ディスクリコメンド Vol.2

日本のジャズシーンを支え、豊かにしてきたジャズ喫茶とリスニングバー。日々ディグを欠かさない店主の選曲は、いつも新しい音楽を教えてくれる。好調なシーンに呼応するように、新しいジャズをかける店が増加中。全国15の名店が寄稿するディスクリコメンド!

photo: Masanori Kaneshita / text: BRUTUS

ジャズ喫茶 いーぐる(東京・四ツ谷

店主・後藤雅洋

Q1:2023年、一番かけた一枚は?

『Here and There』Eric Dolphy

アルバムとしての知名度は低いのですが、貴重なブッカー・リトルとの双頭バンドによる演奏と、ヨーロッパミュージシャンとの共演セッションが含まれた「隠れ名盤」です。ドルフィーの魅力が“ハードバップ”的に表現された「ジャズ喫茶向き」なアルバムなので、自然に〈いーぐる〉での登場回数は多くなるのですね。

Q2:近年登場した好きなプレーヤーと、その魅力を感じる一枚は?

『Your Queen Is a Reptile』Sons of Kemet

シャバカ・ハッチングスは注目のUKシーンの面白さを体現しているミュージシャンです。彼はダンサブルなチームを含む様々なグループを率いて活動していますが、このアルバムは伝統的ジャズファンをも魅了する彼自身のテナーと、それを支えるテオン・クロスのユニークなチューバ・サウンドが演奏に迫力を与えています。

Q3:最近手に入れ、2024年たくさんかけていきたいと思う一枚は?

『Ex Machina』Steve Lehman

フランスの先鋭的ビッグバンド、ONJの音楽監督フレデリック・モーランによるエレクトロニクスを利用したユニークなバンドサウンドと、アルトサックスのスティーヴ・リーマン、トランペットのジョナサン・フィンレイソンの力強いソロが実にうまい具合に融合した、現代ジャズの特徴が典型的に表れた刺激的なアルバムです。

Q4:近年登場した好きなプレーヤーと、その魅力を感じる一枚は?

『Sunday at the Village Vanguard』Bill Evans Trio

ビル・エヴァンスの有名な『Waltz for Debby』と同日録音のアルバムです。ビル・エヴァンスと名ベーシスト、スコット・ラファロのコラボレーションが素晴らしく、現代ピアノ・トリオの原点を示す名盤といってよいでしょう。緊張感とリラクセーションのバランスが良く、何度聴いても飽きないところが素晴らしい。

tonlist(東京・下北沢

店主・宇野雄哉

Q1:2023年、一番かけた一枚は?

『Alive at the Village Vanguard』Fred Hersch & Esperanza Spalding

ベースを弾きながら歌い、複雑で緻密なアレンジを自然で素晴らしい音楽にしてしまうエスペランサ。普段バンドをリードしながらも自由自在な彼女が、フレッド・ハーシュとのシンプルなデュオとなれば、この上なく自由で、しゃべるように歌ったりするさまはまさに音楽。会話と言われるジャズ、2人が織り成す極上の会話が聴ける一枚。

Q2:近年登場した好きなプレーヤーと、その魅力を感じる一枚は?

『KingMaker』Joel Ross

すでに大活躍のビブラフォン奏者ジョエル・ロス。こちらのリーダー作1枚目がわずか5年前!音にキャッチーさと厚みを与えるビブラフォンはジャズに必要不可欠。レジェンドたちと同様にリーダーとしても素晴らしく、1作目にして完成度がすごい。美しいハーモニーと、イマニュエル・ウィルキンスとの超絶的なアンサンブルが最高です。

Q3:最近手に入れ、2024年たくさんかけていきたいと思う一枚は?

『Heritage』Mark de Clive-Lowe

新作ではないけど、個人的には2023年手に入れた一枚。鍵盤奏者のマーク・ド・クライヴ−ロウとサックス奏者ジョシュ・ジョンソンの、アコースティックとエレクトリックどちらであるとかを意識させないほど両者が融合した演奏が素晴らしく、それを支えるリズム隊もバッチリ。日本をテーマにしたメロディは美しく、アレンジも素晴らしい。

Q4:閉店後に自分のためにかけたい、個人的お気に入りの一枚は?

『Curly』Terrace Martin & Curly

すごい勢いでリリースを続けるテラス・マーティン。どの作品も本当に素晴らしいけど、2023年作品は配信のみのリリースばかり。基本はレコードで、レコードがないタイトルはCDで、という形で営業している〈tonlist〉ではかけられない。なので、閉店後に聴いています。中でも、コリー・ヘンリー、カマシ・ワシントンらが参加の本作が一番のお気に入り。

KAKULULU(東京・池袋

店主・高橋悠

Q1:2023年、一番かけた一枚は?

『Mama Rosa』Brian Blade

現代ナンバーワン・ドラマー、ブライアン・ブレイドがシンガーソングライターとして発表した2009年作品。ドラムをまるで歌うように叩く彼らしい少しスモーキーなフォークアルバム。10年以上聴き続けていた大好きな作品。初めてレコード化されたのをドラマーの石若駿さんに教えてもらい、ブライアンのHPから共同で2枚購入しました。

Q2:最近手に入れ、2024年たくさんかけていきたいと思う一枚は?

『Ulaan』Enji

モンゴル出身でドイツ・ミュンヘンを拠点に活躍するジャズシンガー。ギターとベースで表現されたサウンドと歌声の重なりは雄大なモンゴル草原を彷彿とさせる。ジャズとフォークのブレンド感がユニーク。最新作はブラジルのクラリネット奏者ジョアナ・ケイロスの参加などにより無国籍感が増すばかり。来日公演を一番望んでいるミュージシャンです。

Q3:最近手に入れ、2024年たくさんかけていきたいと思う一枚は?

『At Home(An NPR Tiny Desk Concert)』Svaneborg Kardyb

個人的に注目しているレーベル〈Gondwana Records〉からリリースのニューカマー。デンマーク出身のドラム&ピアノの2人組。清涼感がある音像がグラデーションのように変わっていくため、お店でも選曲の空気を変えたい時にかけます。演奏スタイルもドミ&JD・ベックと共通でサウンドの比較も楽しみな次世代ミュージシャン。

Q4:閉店後に自分のためにかけたい、個人的お気に入りの一枚は?

『No One Cares』Frank Sinatra

閉店後はカウンターでシナトラのブルーバラード集を。重厚なオーケストレーションに合わせてスローに孤独を歌い上げる“ザ・ヴォイス”。深夜帯のバー営業を始めたらこのアルバムをかけたいといつも思っている。彼が44歳で発売したアルバム。自分がその年になったらこんな深みを持った人間になれるのだろうか、そんなことを考えてしまう一枚。