アメリカでは2010年代の後半から若い才能がどんどん出てきて、シーンを賑わせている。彼らの特徴は登場時点ですでに、驚異的な完成度に達していること。いきなりシーンを変える実力を持っている。
中でも近年のジャズのリリースで最も大きな話題をさらったのがドミ&JD・ベックの『NOT TiGHT』。
2000年生まれの鍵盤奏者ドミと03年生まれのドラマーのJD・ベックの2人は、YouTubeやInstagramに上げていた動画がきっかけでサンダーキャットやアンダーソン・パークらの目に留まり、アリアナ・グランデと共演したり、パークがブルーノ・マーズと結成したシルク・ソニックのアルバムに楽曲を提供したりするまでになった。
彼らの特徴はロバート・グラスパー以降のジャズやヒップホップを融合させる手法を受け継ぎつつ、複雑な曲を超絶テクニックで奏でて、さらにそれをなぜかキャッチーに昇華してしまうこと。どんなに高度な変拍子も奇妙なハーモニーも、彼らの手によってすべてがポップになってしまう光景はマジカルとしか言いようがない。
そんな彼らのデビュー作はパークが設立したエイプシットと名門ブルーノートの共同リリース。これを名門がリリースする状況は、今のシーンの風通しの良さを表している。
ポップさとハードさを併せ持つ世代の登場
そのブルーノートは10年代後半以降、若手のリリースに関してほぼ一人勝ちの状態にある。95年生まれのピアニストのジェイムズ・フランシーズ、95年生まれのビブラフォン奏者のジョエル・ロス、97年生まれのアルトサックス奏者のイマニュエル・ウィルキンス、注目の若手と次々に契約しているのがその証拠だ。
彼らは圧倒的な技術を持ち即興のアイデアも無尽蔵で、演奏家として超一流。その飛び抜けた能力を抑制せずに演奏する天真爛漫さがあり、自らを真っすぐに表現する清々しさも魅力につながっている。ただ、ジョエルとイマニュエルに関しては別の特徴もある。10年代はジャンルを横断・融合しキャッチーに聴かせることで、広いリスナーにリーチすることを目指すミュージシャンの存在感が強かった。
しかし、この2人はアコースティックのコンテンポラリージャズを軸にした作風で、広く届ける工夫よりも自分が目指す表現の追求を優先し、さらにそこに深いメッセージも込めている。そのハードコアな姿勢のまま、今や世界中のリスナーの支持を得ていて、日本でも挾間美帆から石若駿、中村海斗までが彼らへの関心を口にする。この2人からは新たな潮流を感じざるを得ない。
また、この世代では98年生まれで名門ヴァーヴから『Let Sound Tell All』でデビューしたジュリアス・ロドリゲスもチェックしてほしい。彼の特徴は全方位型。ジャンルを横断する曲もあれば、伝統的なジャズも演奏するし、作編曲だけでなく、プロダクションにもこだわる。
楽器ではピアノとドラムのどちらも一級品。交流は広く、伝統派のサマラ・ジョイから、サイケデリックなシンガーのニック・ハキムまであらゆる人脈が交差する。そのすべてをアルバムに詰め込んだジュリアスの感性は、間違いなくこれまで存在しなかった類いのものだ。
現在のアメリカでは20代による音楽がフレッシュな驚きを与え続けていて、それを名門レーベルが着実に後押ししている。それは、メインストリームがかつてない活況を呈している証しとも言えそうだ。