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着る

メンズファッションの聖地ロンドンで。ジョン・アレキサンダー・スケルトンの服作り

絵本から出てきたような佇まいだった。粗野な質感の白いオーバーオールに柔らかいコットンの黒シャツ。首元にはシルクのスカーフを巻いたジョン・アレキサンダー・スケルトン。彼が作る服を身に纏うと、生地の凹凸を感じる。そして“着る”ことについて、改めて考えさせられる。

Photo: Asuka Ito, Yoshio Kato / Edit: Motofumi "POGGY",kogi, Takuhito Kawashima / Coordinatiom: Kyoko Yano / :

服作りの原点に立ち返る
孤高のデザイナー

「ウェブサイトはないし、これから作るつもりもない」。

スケルトンが言う通り、彼が手がけた洋服は通常ネットで買うことができない。

「僕の服は決して安くない。だから実際に店頭へ足を運び、直接生地を触ってほしいし、着てほしい。そして自分が何を今から購入するのかきちんと理解してほしいんだ」

スケルトンは大学で政治と歴史を専攻。学士を取得したのち、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションへ入学。洋服作りにおける技術を学び、のちにセントマーチンで修士号を取得するという、少し変わった経歴を持つ。

そして「マス・オブザベーション」(世論調査)と題された卒業コレクションはロンドンファッションウィーク中にスケジューリングされ、他のデザイナーたちの存在をかすめてしまうほど、メディアを絶賛させた。

ジョン・アレキサンダー・スケルトン/(1,3,4,5,8)ドーバー ストリート マーケットギンザ TEL:03-6228-5080 (2,6,7)吾亦紅 TEL:03-6452-5530

そのコレクションもまたユニークだ。イングランド北部にあるボルトンというテキスタイル産業で栄える町の1936年の資料から着想を得ている。当時、シュルレアリストたちが、市民にアンケートをとった、「今の生活に満足しているのか」などの項目からなる貴重なドキュメントが今も残っていたのだ。

「正直、セントマーチンでは技術的なものは何も教わらなかった。ただアイデンティティを大切にしろと」。

生地と体の間にある空気を感じる豊かなシルエットはもちろん、スケルトンはファブリックにも執拗にこだわっている。ヴィンテージのファブリックをほどき、一度糸にし、そこから手作業で生地にしていく。染色も手作業。時間も手間も要する作業だ。

〈John Alexander Skelton〉商品サンプル
手染めや手織り、手縫いなど手間をかけて作られたサンプルが並ぶジョン・アレキサンダー・スケルトンのアトリエ。ヴィンテージの生地やパターンなども保管している。

「個性を尊重する手法にこだわりたいんだ。手染めをすることで、まばらに染まるし、トーンも異なってくる。生地も同じさ。昔の手編みのファブリックを見ていると、編むテンションにムラがあるのに気づく。“この人はここで昼休憩をしたからちょっと緩くなったのかな?”とかね。

ものすごく人の温かみを感じるから、見ていて安心するんだ。現代社会では、ガシガシと機械で大量生産することが普通だから、今の洋服にはあまり見ることができないニュアンスなんだろうけどね」

一見、個性の強い洋服に思うが、同じロングコートでも、着用者によってベテランファッションエディターのように見えたりヒッピーのように見えたりと、さまざまなスタイルを生み出すスケルトンの服。

〈John Alexander Skelton〉デザイナー/ジョン・アレキサンダー・スケルトン

「着用者をイメージしてデザインすることはない。それぞれの解釈で着てほしいんだ。そして着た人を見て驚きたいのがデザイナーとしての気持ちさ」

コレクションのアイデアしかり、政治や社会環境によって変化する装いに強い興味を示すスケルトンには、人間観察が欠かせない。ただインスタグラムやスナップを見るのではなく、リアルな生活者が集う場所へ足を運ぶ。

そしてロンドンのソーホーにある伝統的なパブ、ザ・フレンチ・ハウスはスケルトンが最も足を運ぶお気に入りのスポットである。

「色々なキャラクターを探すうえで、ザ・フレンチ・ハウスはいい場所さ。アーティストから政治家、建築家までさまざまな職種の人と出会えるからね。彼らとビールを飲みながら話をする中でアイデアを得て、自然と次のコレクションに投影されていたりもする。格好の学びの場所さ」

ロンドン〈ザ・フレンチ・ハウス〉外観
1891年に創業した老舗パブのザ・フレンチ・ハウス。詩人のディラン・トマスやスポーツ選手、フランス大統領まで各界に常連客を持つ。住所:49 Dean Street, Soho, London | 地図