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今や日本のジャズシーンは、若き才能の宝庫。秩父英里、石川紅奈らスタイルを貫く新星たち

日本のジャズの進化が止まらない。黒田卓也やBIGYUKIの世代がアメリカを拠点に成功を収め、しばらくすると石若駿や井上銘らが日本の国内シーンで頭角を現してきた。日本では頻繁にジャズミュージシャンの活躍を目にする状況が続いている。例えば、プロデューサーのSTUTSが手がけた〈Mirage Collective〉には、ピアニストの高橋佑成やトランペット奏者の佐瀬悠輔が名を連ねている。今や質の高い生演奏が必要な場所には、必ずジャズミュージシャンの名前があるのだ。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Mitsutaka Nagira / edit: Kaz Yuzawa

日本のシーンでは、新鋭も次々に出てきている。パプアニューギニア出身でバークリー音楽院を経て、現在日本で活動しているアルトサックス奏者の松丸契は、日本を拠点にし始めてすぐに、さまざまな場所で名前を見るようになった。大友良英や、ヒップホップ・トリオのDos Monos、ロック畑のギタリストでプロデューサーの岡田拓郎や映画『ドライブ・マイ・カー』の音楽を手がけた石橋英子まで。世代もジャンルも超えた“尖った”音楽家が、松丸の演奏を求めている。

そんな松丸は、自身のソロアルバム『The Moon, Its Recollections Abstracted』で音響的なサウンドを聴かせたかと思えば、所属するSMTKではパンキッシュで暴力的な演奏を聴かせることもある。そして彼の周りには前述の高橋佑成やギタリストの細井徳太郎など、面白い存在が集まっている。

ジャズミュージシャン・松丸契
松丸契(まつまる・けい) ©Charlie Barclay Harris
松丸契のソロアルバム『The Moon, Its Recollections Abstracted』

バークリー留学組ではピアニストの壷阪健登も面白い存在だ。今、若手で最も信頼されるピアニストの一人で、中村海斗の『BLAQUE DAWN』にも参加している。そんな壷阪はジャズだけでなく、TAMTAMなどポップス系のサポートをやったり、sorayaという歌もののプロジェクトもやっている。ジャズとポップスを軽やかに行き来する姿勢は、実に現代的だ。

ジャズミュージシャン・壷阪健登
壷阪健登(つぼさか・けんと)

そのsorayaを壷坂とともにやっているのが、ベーシストでボーカリストの石川紅奈。丸の内コットンクラブでアップライトベースを弾きながらマイケル・ジャクソンの名曲を歌った動画『石川紅奈 KURENA ISHIKAWA ♪Off The Wall』が150万回も再生される大ヒットをして、一躍その名が知られることになった。

『石川紅奈 KURENA ISHIKAWA ♪Off The Wall』

多くの音楽要素を融合しながら、日本語の歌を乗せるsorayaに石川の声は欠かせない。2023年3月にはデビュー・ソロアルバム『Kurena』がリリースされた。

ジャズミュージシャン・石川紅奈
石川紅奈(いしかわ・くれな) ©Yuji Watanabe
石川紅奈『Kurena』

同世代で切磋琢磨し、実力を高め合う理想の関係

演奏家や歌手だけでなく、作曲家においても面白い存在がいる。バークリー音学院を首席で卒業後、仙台を拠点に活動する秩父英里は、ジャズ作曲の世界で高い評価を受けている。

ジャズミュージシャン・秩父英里
秩父英里(ちちぶ・えり)

ASCAPハーブアルパート・ヤングジャズ作曲家賞やISJAC/USFオーウェン賞など、海外のアワードを受賞する彼女の楽曲はワールドクラスだ。アルバム『Crossing Reality』では石若駿らの日本勢にレミー・ル・ブーフらの海外勢を加えた編成で、心理学からカエル(!)というテーマの楽曲まで独特の世界観を繊細に表現する。

ほかにも、J-POPのサポートでも目覚ましい活躍をしている和久井沙良、すでに丸の内コットンクラブで単独公演を行っている梅井美咲をはじめ、小西佑果、冨樫マコト、治田七海、平田晃一、高橋陸などあまたの才能がひしめいていて、その下には高校生サックス奏者の佐々木梨子、さらには小学生ピアニストの古里愛も、東京のジャムセッションの現場で話題をさらっているという。中村海斗いわく「古里さんが『Caravan』ですげーソロを弾いているのを見ました」。

日本のシーンにはすでに、次の次の才能までもが顔を出し始めている。この刺激的なシーンを見逃す手はないだろう。