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構想20年の〈アマン京都〉。泊まることを目的に旅に出る

ホテル選びが俄然面白くなっています。インバウンドやオリンピック、民泊法改正の影響もあり、日本全国でホテルの開業ラッシュなのです。日本初上陸の外資系ラグジュアリーや、地域密着型リゾート、アイデアをひねった体験型に、一棟貸しの施設まで。バラエティ豊かなラインナップに、心が刺激されるはず。もはやホテルに滞在することが旅の目的なのです。北は北海道から南は沖縄まで、“泊まりたい”がたくさん!

photo: Tadayuki Minamoto / text: Rie Nishikawa

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京都の自然と一体になる、
アマンならではの
ナチュラルリゾート。

京都のアマンの噂はずっとあった。創始者であるエイドリアン・ゼッカが惚れ込んだ、京都でも特別な場所にできるらしいといわれていたが、なかなかオープンせずに、長年秘密にされてきた。

左大文字山から続く鷹峯三山の麓、そのままの自然が残るこの場所は、計画がスタートした頃は京都市の建築規制があり、ホテルの建設ができない土地だったからだ。
近年その条件が改定され、20年の時を経て2019年11月、ついに〈アマン京都〉が開業した。

日本ではアマン初の都市型ホテル〈アマン東京〉、伊勢志摩にある温泉リゾート〈アマネム〉に続いて3軒目、世界では32軒目となる。

自然林を有する32万㎡の広大な敷地のうち、鷹峯の山中に源を発する、淀川水系の紙屋川に沿った2万4000m2が、〈アマン京都〉のホテル部分だ。
市内からの道中、直前まで住宅やホテルがあり、それほど山奥という場所ではない。しかし、一歩中に入ると別世界。苔むした石畳や石垣が迎えてくれる森の庭が広がる。

この庭を40年以上もの間、手をかけ育んできた前所有者は、西陣の中でも最高級の西陣織を扱う織物屋さんで、自身の織物や世界中のテキスタイルコレクションを展示することを夢見ていたという。

いわゆる日本庭園と異なるのは、石の使い方。正面ゲートにある兵庫・姫路市の巨大な丹波石に始まり、岐阜・恵那市、奈良・天川村、長野や岡山など、名産地から厳選された大量の石がこの庭を覆う。

「湧き水が出ているところに祠のような石組みがあったり、山道の先には石の広場と、前の所有者さんが考古学に造詣が深い方だったので、庭園ではなく、遺跡を愛でるかのような独自の美意識で造られた庭です。
デザインを担当されたケリー・ヒルさんも庭の美しさを損なわないよう、建物が自然に溶け込むように配慮をしていました」(総支配人、塩田明)

6つの宿泊棟に、オールデイダイニングと日本料理それぞれのレストラン棟、スパ棟、アライバル棟が木々の間に点在する。そこは、もともと美術館の建物を予定していて植栽のなかった場所だ。

「庭をできるだけ変えず、樹木も最低限しか伐採していません。わずかに伐採された木はウッドプレートや客室のキーケースなどに使用して、その後の命をつなげています」(塩田)

2階建ての建物4棟にある24室の客室はすべて60m2で、芒、楓、楢など、客室の周りに生える植物の名前がつけられている。高台に位置する2棟のパビリオンはそれぞれ1棟を貸し切るスイートの扱いだが、ベッドルームやバスルームのインテリアはほぼ同じ。

家具や照明はアマン京都オリジナルのデザインで、畳のベッドルームにはローテーブルと座布団を置き、床の間が造られている。
日本旅館をイメージした部分がほかのアマンにはない特徴だ。巨大なヒノキ風呂しかり、和でいて日本すぎず、京都であって京都らしくない、非日常感がアマンらしい。

最近、ウェルネスに力を入れているアマンとあって、スパ棟には近くの源泉から天然温泉が引かれ、トリートメントの利用がなくてもゲストは自由に楽しむことができる。スパ棟に行ったら、まず香りから楽しんでほしい。

お香として焚かれているのは日本茶だ。その土地土地のものを上手に取り入れたシグネチャートリートメントは男性の利用も可能で、足浴では宇治茶、地酒、黒豆、金箔が使われるなど、楽しい仕掛けが待っている。

オールデイダイニングで迎えてくれるのは総料理長の鳥居健太郎。16年以上を海外で過ごし、37歳の若さながらイタリア料理のトップシェフとして、シンガポールやロンドンで活躍してきた経歴を持つ。
「Land To Table」をコンセプトに、京都近郊の農家を訪れて、厳選した食材を用いて創作料理を提供する。

「敷地の山で採れた栗を前菜に使うこともあります。これからは冬に牡丹鍋、春にタケノコと大地の恵みをいただくことで、四季折々の食を楽しんでほしいですね。森の庭でのピクニックもおすすめです」(鳥居)

日本料理〈鷹庵〉では、京都吉兆出身の料理人三田紘司による、本格的な和食が味わえ、合わせる日本酒や焼酎、ワインも素晴らしい。

「一番奥の蛍の宿泊棟や山の上の天ヶ峯という庭に行くと、いつもさえずりで出迎えてくれる鳥がいるんです。
山から湧き出る小川のせせらぎや木々が揺れる音とともに、喧騒から離れた静寂の森で過ごしていると、ここが京都であることを忘れてしまいます。

深く呼吸をしてみてください。都会ではこんなに澄んだ空気を感じられません。本当の意味でのナチュラルウェルネス。この自然の中で、心も身体も解き放っていただく場所になれればと思っています」(塩田)

プライベートなリゾートからスタートしたアマンは2020年にニューヨーク、メキシコ、2022年にバンコク、2023年にはサウジアラビアの開業が予定され、世界各地へとそのリゾートコレクションを増やしている。

その中でも〈アマン京都〉はひっそりとした庭園に漂う親密で平和な時間が、初期のアマンをも彷彿とさせる。非日常に滞在する、唯一無二の自然派リゾートだ。

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