放送時間や媒体に合わせた“声のTPO”を意識
『ジェーン・スー 生活は踊る』『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』『となりの雑談』……数々のラジオ・Podcast番組を担当し、声でリスナーの心に寄り添うジェーン・スーさん。彼女の番組を聴いたあとはいつも、人生を前向きに歩んでいこうと思えるような、明るい余韻に包まれる。そんなスーさんは、放送時間帯や媒体の特性に合わせて、話し方をコントロールしているという。
「Podcastは皆さんが意思を持って能動的に聴くものですが、ラジオは街中や飲食店で流れるなど、人々の生活にひょっこりと顔を出すメディア。なので、生活を邪魔しないようにと、話し方や番組の内容などに気をつけています。『生活は踊る』はお昼の番組なので、なるべくはっきりとしゃべったり、声のトーンを少し上げたり……ノイズにならずに昼の時間帯に馴染むことを意識していますね。
でもそうした“声のTPO”はきっと、みんな自然と身につけているんじゃないかな。友達とのおしゃべりと会社でのプレゼンでは、話し方が全く違うように。一方でPodcastは聴かれる時間がバラバラなので、トーンはあまり意識していません。『OVER THE SUN』は普段の話し方に一番近く、流し聴きできる番組のイメージ。『となりの雑談』は、聴いた人が立ち止まって考えるような内容が多いので、配信時間を短めの15〜20分に設定しています」
音声のみのメディアにおいては、「リスナーはほぼ、口調で判断している」と断言する。
「例えば真っ当な話題でも、乱暴な口調だったら、その印象に引っ張られるもの。余計な誤解を生まないように気をつけています。話すスピードや語尾の発音などは、共演するアナウンサーの方を見よう見真似で参考にし、オンエアも聴き直したり。話し方にコンプレックスを感じている人は、理想とする人を真似ることで、改善できると思いますよ。そこは練習できるところですから」
相手にどんな感情を起こすか想像することを大切に話す
取材中、何度も出てきたワードが「サービス精神」。「しゃべる」「伝える」「読む」とは、それぞれ全く違う行為であると捉え、区別をしっかりつけるようにしている。
「“しゃべる”の主体はあくまで自分。“読む”の場合は原稿、“伝える”の時は主体は聴き手になる。“しゃべる”は横にいる人とただ話すような状況を指し、第三者が聞いて、何かの役に立つ内容ではない。他方で“伝える”は、物理的・心理的な距離がある人にも、耳を傾けてもらえる内容を届けること。私が音声メディアでしているのは、常に“伝える”ことだと思います」
自分からパーソナリティを志したことはなく、2011年のゲストとしての番組出演を機にオファーが続き、ラジオの世界へ。仕事として依頼を受けているからこそ、矜持(きょうじ)を持ってマイクに向かい、主体を自分ではなく聴き手に据える。
「時間を割いて聴いてくれているリスナーに損をさせないことを、常に意識しています。“こう聴いてほしい”“こういうことを伝えたい”と決め込んで、従わせるのは好きじゃない。正直、何か伝えたいことがある人の話って、おそらく皆さん聴きたくないと思うんですよね。どういうふうに話したら相手が楽しめるか、どんなタイミングで話したら伝わるか……そこを考えることが、一番大事。“話したら嫌われるかも”と相手の反応を気にするのはただの保身で、自分が主になっている。
そうではなく、自分の態度で相手の心にどんな感情が起こるかを想像する。そのサービス精神が、伝えるうえでは重要だと思います。仕事でも、手応えの指針を相手の反応に置いてしまうと、先方の気分に左右されますよね。私は基準をそこに据えず、とにかく引き受けた仕事に120%の力で取り組む。納品後に、同じ方からまたお仕事をもらえたら、“ちゃんと伝わったんだな”と手応えを感じますね」
『生活は踊る』の人生相談コーナー「相談は踊る」へは、毎回老若男女のリスナーから相談が寄せられる。スーさんは冷静ながらも、一通一通へ言葉を尽くして真摯に向き合う。
「人生相談は、扱いようによっては劇薬になる。一見相談に答えているようでも、パーソナリティが自分の株を上げるための道具にもできてしまう。例えば、聴くとなんだかイライラする相談内容に対して、私が怒れば、“いいぞ、ジェーン・スー!”とリスナーはスカッとするでしょう。でも、それは不義理なこと。私はあくまで相談者さんの悩みだけに答える意識で向き合っています」
リスナーは“同じ町内の人”。過剰に干渉しない距離感で
堀井美香さんとともに届ける『OVER THE SUN』の月間リスナーは約80万人。2025年3月には番組のイベントが東京・日本武道館で開催されるほどの人気ぶりだ。改めてリスナーとはどんな存在か問うと、“同じ町内の人”と譬(たと)えてくれた。
「会ったら“お元気ですか?”と言葉を交わすような関係性。互いに過剰に干渉したり決めつけたりしない距離感が、互助会員(番組リスナーの呼称)さんが支持してくれる要因なのかも。みんな自発的にオフ会をして楽しんでいるそうで、私たちは場所を提供しているだけという感覚です」
また、ラジオ番組の制作スタッフは、人事異動などによる入れ替わりが激しいそう。そのため『生活は踊る』では、「リスナーに約束すること3ヵ条」を決め、チームで共有している。
「“1:生活情報番組なので、聴いた人がその日すぐ(最低でもその月中に)試せることを紹介する。2:聴いている人の居場所になる。『私はここにいるとなんだか居心地が悪いな』と思わせない。3:日々のルーティンをワクワクに。洗濯や炊事など、毎日やらなければならないことが楽しくなるように”。
これだけはコーナーを構築するうえで死守してほしいと共有したら、メンバーが替わっても番組作りの芯が全くぶれなくなりました。スタッフを主体と考え、わかりやすく把握してもらうために、標語を作る。これも、伝え方ですね」

ジェーン・スー流、ラジオで語りかける際のマイルール
・聴く人の日常を壊さない口調と言葉選びを意識する。
・すべての発言にサービス精神を行き渡らせる。
・リスナーに約束したい指標を定めてチームに共有する。