Wear

Wear

着る

クラブカルチャーを愛する、ロンドンの鬼才。ミュージシャン・Jamie xxの活動の源を探る

国内外で広く活躍する大人たちは、今何に興味があり、どんな挑戦をしているのか。待望の新譜を発表した英国のミュージシャン・Jamie xxさん。業界で新風を吹かせるかっこいい大人を訪ね、活動の源を探りました。

photo: Piczo / text & edit: Ko Ueoka

ロンドンのバンド〈The xx〉の一員であるジェイミー xx。バンドの頭脳として革新的なサウンドを牽引しながら、ソロアーティストとしても活動し、2015年にリリースしたファーストアルバム『In Colour』は、同年のマーキュリー賞とグラミー賞にノミネートされた。

それからあっという間に約9年が経過。長い年月をかけて制作したセカンドアルバム『In Waves』を、満を持してリリースした。

最近では〈シャネル〉に楽曲を提供し、〈プラダ〉など名だたるブランドのパーティにはDJとして出演、過去には〈ケンゾー〉のショーミュージックを担当した。ジェイミー xxとファッションとの関係性は深く、ファッションは音楽制作にある種の自由を与えてくれるものだという。自身のファッションへのこだわりはどのようなものだろうか?

「最近は自分に一番しっくりくるものを着ているよ。基本的にはジーンズにTシャツといったシンプルな服装で、秋冬は〈ステューシー〉のレザージャケットも定番だ。レーベルのマーチなど、音楽に関連した服も多いかな。

例えば、今着ている〈XL Recordings〉と〈Maharishi〉がコラボして制作したブルゾンは、ハリスツイードの生地で仕立てられていて、ロンドンの寒い冬でもあたたかく過ごせるんだ。周りの友達がどんな服を着ているかはよく観察しているし、特にバンドメイトのオリヴァーは、いつだってスタイリッシュだ。子供の頃から、彼は僕に何を着たらいいか教えてくれて、いつもコピーしていたんだよ。僕にとっての一番のファッションアイコンだね」

ミュージシャン・Jamie xx
ロンドン中心部を一望できるプライベートスタジオにて。ジェイミーxxが着ているのは、〈XL Recordings〉の30周年を祝い、〈Maharishi〉が制作した非売品ブルゾン。ハリスツイードが使用された、秋冬の定番品の一つ。

また近年のライフスタイルの変化が、制作に影響を与えているという。その一つは、10年ほど前に休暇でハワイを訪れた時に始めたというサーフィンだ。アルバムタイトルにも、波という言葉で紐づけられている。

「初めて波の上に立った時、僕のすべてが変わったような気がしたんだ。海から得られる平穏は、自分の人生をどう生きたいかを考える助けになる。そしてサーフィンは僕をリラックスさせ、最高の音楽はリラックスした状態から生まれるんだ」

ダンスフロアへの愛と、自分のクラブを設立するという夢

新作アルバム『In Waves』には、エアホーンやクラブでの人々の話し声など、ダンスシーンの高揚感と臨場感が取り入れられている。UKダンスフロアへの愛に満ちているのだ。

「このアルバムの制作中、モダンミュージックを聴くのをやめた。そうすることで、ほかの現在の音楽に影響されることなく、新しい表現に挑戦することに集中できたんだ。その代わり、古い音楽への参照は多くある。その一つが、アヴァランチーズの『Since I Left You』。

無音の状態がなく、クラブにいるかのような空気感があり、その要素を取り入れてみた。実際には、ほとんど気づかないような小さなサインがもっとたくさん入っていて、長い時間をかけて作られた曲たちをサウンド的に一つに結びつけるのに役立っている」

2024年5月には、独自のパーティ『The Floor』を開催。南ロンドンにあるキャパ300人ほどの小さなクラブで、ジェイミー xxと友人たちが、10夜連続でダンスパーティを繰り広げた。

「若い頃、ショーディッチにあったプラスティック・ピープルというクラブに通っていて、いつも一人で駆けつけては、暗闇の中で素晴らしい音楽に浸っていた。僕の人生を大きく変えてくれた最高のクラブなんだ。惜しくも2015年に閉店してしまったけれど、今回のイベントではプラスティック・ピープルのような空間を再現したかった。その後NYとLAでも開催したよ」

アルバム制作やクラブイベント開催を経て、今秋からリリースツアーを控える中、この先について思うことがあるという。

「良い音楽を伝えていく場所として、自分のクラブを作ることにずっと興味があって、最近はもっと真剣に考えるようになった。実は、過去に何度もクラブになりそうなスペースを買いそうになったけれど、本当に買わなくてよかったよ……。あまりに運営が大変で、人生を台なしにしていただろうから(笑)。でも、いつかは実現したいと思っているんだ」

オーバーハイム社のシンセサイザー
最もお気に入りの機材は、オーバーハイム社が70年代に発売した、8つのシンセサイザーが付いた一台。ほかにないユニークなサウンドはもちろん、なにしろ古いので、電源を入れるたびに音が変わるのも楽しんでいる。

ミックスで生み出すポップなアメリカントラッド。〈Unlikely〉デザイナー・中田慎介の活動の源を探る

機能美にユーモアを融合させた眼鏡作り。デザイナー・外山雄一の活動の源を探る