井浦新、アメリカ映画に初挑戦した心境
「ヒデキは、日常に一生懸命ですが、そのせいで視野が狭い。でも、一歩踏み出したアメリカの地で、生き甲斐を見つけます。挑戦するのは怖いことですが、勇気を持って進めばアップデートできる。初めてアメリカ映画で仕事をした僕も、彼に共感しました」
性別・国籍・人種という区別にとらわれない、人間そのものへの興味
『東京カウボーイ』は、その名の通り、ある種の西部劇だ。近年このジャンルでは『パワー・オブ・ザ・ドッグ』や『クライ・マッチョ』『ファースト・カウ』など傑作が生まれたが、共通するテーマは男性性の解体だ。旧来の「男性らしさ」を批評的に描くことで、西部劇は更新されてきたのだ。
そして本作もまた、現代を舞台にして同様のテーマを描く。東京で働く商社マンのヒデキは、米・モンタナ州の牧場へ行き、自らの“指導”で牧場の体制転換を図るが、現場の“カウボーイ”の返り討ちに遭う。
それでも彼がカウボーイルックに身を包んで事業にこだわるのは、上司であり恋人でもあるケイコ(藤谷文子)に認められたいからだ。この男性の劣等感を、井浦はどのように感じたのか、訊(き)いた
「ヒデキの敗北感もわからなくはないです。でも今の僕は、人間はみんな違っていて、それが文化の豊かさを生むと思うので“男性/女性だから”という価値観は持ち合わせていません。若い頃は自分が人間嫌いだと思い込んでいました。それで美術や芸術、歴史だけに関心を向けていた。
ところがあるとき人が作ったものに惹かれているということは、人間に興味があるんだと気づいたんです。それからは性別だけでなく、国籍や人種といった区別を超えて、個人を見るようになりました。ヒデキも異なる文化に出会って、価値観が転換して成長していく。そうやって変化する彼の姿は、希望になると思います」
本作の出演で、井浦自身もアメリカ映画という“異なる文化”に身を投じたわけだが、どんな変化があったのだろうか。
「現場で感じたことは、その場で口にしようと思いました。今作で共演した俳優はみんな、納得がいくまで意見交換し、演技を追求していたんです。スタッフも“今の照明最高!”などと言い合う。その光景に刺激を受けました。日本でも先輩・後輩にとらわれず、いいなと思ったことも違和感も、ちゃんと伝えられる俳優になりたいですね」
49歳・井浦新は、まだまだ自分を更新していくようだ。